原稿を読まずに30分で話すコツ

私は原稿を読むようなスピーチは好きではありません。ただ、いまは経済同友会の代表幹事を務めていることもあり、発言には責任が伴います。事前の準備は欠かせません。まずは箇条書きで複数のキャッチコピーを書き出し、秘書に事実関係の確認や話題の肉付けを頼みます。何度かやりとりを重ね、スピーチ原稿をまとめます。30分間では、A4用紙で7~8枚分になるでしょうか。

スピーチの前、原稿のなかからキーワードを拾って、話題の漏れや抜けがないようにメモを準備しておきます。気軽なスピーチでは原稿は読まずに聴衆の表情や反応に応じて、アドリブで話を進めます。キャッチコピーを軸に準備しているので、小さなメモをみるだけでも、話したいことをしっかり伝えられるのです。

最後に、いま私が提唱している“z=a+bi”という方程式について説明させてください。これは本来、「複素数」という数学の概念を示すものなのですが、私は現代社会を表現するキーワードとして読み替えられると思うのです。「a」は重さのある原子(atom)、「b」は重さのないデジタルデータ(bit)、そして「i」はインターネット(internet)。つまりこの式によれば、現代社会「z」とは、重さのある実物経済と重さのないネット経済の組み合わせとして捉えられます。

複雑な物事をいかに凝集させるか。キャッチコピーを考えることは、情報整理にも役立ちます。ぜひ取り組んでみてください。

三菱ケミカルホールディングス会長 小林喜光
1946年、山梨県生まれ。71年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。海外留学を経て、74年三菱化成工業(現・三菱化学)入社。96年記憶材料事業部長兼三菱化学メディア社長、2007年三菱ケミカルHD社長。15年より現職。同年より経済同友会代表幹事も務める。理学博士。
 
(山川 徹=構成 遠藤素子=撮影)
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