桁外れの大ヒット「ネジザウルス」
「固いネジを無理やりドライバーで回したら、ネジ穴をなめてしまった」
「錆びついたネジが回らない」
皆さんにもそんな経験はないでしょうか? 私の経営する工具メーカー「エンジニア」が開発した「ネジザウルス」という道具は、そうしたネジのトラブルを解決する商品です。ペンチのような形をしたネジザウルスは、挟む部分の先端にタテ方向の溝が刻まれており、ネジの頭をがっちりつかんで簡単に取り外すことができます。年間1万丁売れれば「大ヒット」といわれるのが工具業界ですが、2002年の発売以来260万丁を売り上げたネジザウルス・シリーズは、当社にとって、文字どおり桁外れの看板商品に育ちました。
三井造船の技術者だった私が家業であるエンジニア(当時は双葉工具)に転じたのは29年前のこと。以来、商品化した工具は、ネジザウルス・シリーズを含め800種類に及びます。そうした新製品を形にする際に重要な役割を果たしてきたのが、常日頃つけている「発想ノート」です。
アイデアを出すことは圧力鍋で料理をすることに似ています。美味しい料理には新鮮な素材が必要なように、まず頭の中にアイデアの元になるたくさんの「具材」を入れます。そして火にかけて圧力を加えるのと同様に、常に問題意識を持って考え続ける。そして最後に圧力をフッと抜き、リラックスすることで、新しいアイデアが生まれるわけです。
発想が浮かびやすくなるこの瞬間を、昔の人は「馬上・枕(ちん)上・厠(し)上」といいました。馬上は馬に乗っているとき、枕上は寝ているとき、厠上はトイレにいるときです。私の場合、馬ではなく新幹線や飛行機での移動中、家で寝ているとき、そして大好きなサウナに入っているときに、よくアイデアが浮かびます。
サウナの噴水をぼーっと眺めていると、まるでネジの潤滑油のように見えてきて、新たな発想を思いついたりするのです。考えに考えてひねり出すというより、肩の力を抜いてリラックスしているときに、いいアイデアが降りてくるのです。