ユニークなデザインの理由

「私たちが何をしたかったかと言えば、チョコレートをこれまでの『おやつ』の概念から解き放って、ワインやコーヒーのような大人の嗜好品にしたかったんです」と、山下さんはザ・チョコの試作パッケージを机の上に並べながら話した。一般にお菓子のパッケージは、説明が盛りだくさんでおいしそうな写真を大きく使ったものが多いが、嗜好品ならば話は大分違ってくる。従来のお菓子らしい説明盛りだくさんのパッケージでなく「対峙したときに気持ちが切り替わるくらいの世界観でなければならないと考え、デザインを一からやり直し、幾つものサンプル試作を経て、余計なコピーを入れず、手作り感のあるクラフト調に決定しました」。

カカオポッドをモチーフにした縦方向のデザインも、日本では珍しい。山下さんいわく「カカオの奥深いストーリーを運ぶ商品として、一般的な棚に専門店をつくろうというコンセプト」だという。確かにその縦デザインは欧州の高級板チョコを彷彿とさせ、並んでいる様子はチョコ専門店の一角のようだ。「日本人は板チョコ1枚を食べきれない方も多く、銀紙がポロポロと破れるのも衛生的に好まないので、個包装の小板3つ入りにしました。箱を開けると目に飛び込んでくる内部の柄にも心地よい驚きを感じていただき、この商品に出会って封を開け、食べたあとの余韻まで、五感で楽しんでいただきたいのです」。

パッケージは板チョコの形状だが、開けると3個の個包装になっているので食べ切りやすい。

また、ザ・チョコで話題となったのは、その型形状だ。3個入りの個包装を開けると、自分で割って食べられるよう、小ブロック、ドーム、ギザギザ、スティックの4ゾーンに分かれている。これらは単なるデザインではなく、口に入れる量・形状で味が変わるのを楽しんでもらうため。丸いドームはミルクを濃厚に感じさせ、ギザギザはカカオの香り立ちを良くし、薄くてエッジの立った形状はカカオを味わうのに最適なのだという。

「弊社では2000年くらいから口の中に入れる量や形でチョコの味が変わるとの研究結果が出ていて、意匠登録も行いました。チョコレートの味を追求するといずれその発想に行き着くので、最近のスペシャリティチョコで割り方が似たものが出てくるのも自然なこと。明治ではチョコレートの形は数えきれないほど作ってきており、味表現の一つ、味わい方の提案として、この形状を楽しんでいただければと思います」(山下さん)

個包装を開けると、写真のような板チョコが現れる。さまざまな形状の組み合わせになっており、割って食べると違った風味で味わえるのが楽しい。
写真の3つはすべて同じ材料で作ったチョコレートだが、口に入れる量や形状によって異なる味に感じられるという。