時代の趨勢は「クラフト」へ?

1杯目、2杯目の話からは逸れるのですが、ジンについては興味深い流れが起きつつあります。キーワードは「クラフトジン」です。「クラフトビール」という言葉は耳にしたことがあるかもしれません。クラフトビールに厳密な定義はありませんが、大手メーカーが「工業的」につくるものとは違い、顔の見える小規模生産者による個性的なビールの総称です。

クラフトビールの先進国はアメリカですが、このトレンドは日本をはじめ世界中に広がっています。そして、これと似たようなことがジンの世界でも生まれているのです。そもそもジンとは、穀物由来の蒸留酒に、ジュニパーベリーという植物の果実で風味付けをしたものです。

風味や香り付けのための植物のことを「ボタニカル」と呼んでいますが、新しいジンのつくり手たちは、これまでとは異なるボタニカルを使って、オリジナルの味わいを生み出そうと試みているのです。ちなみに、日本の京都蒸留所がつくるクラフトジンでは、ボタニカルとして玉露、ゆず、ひのき、山椒などが使われているそうです。

「小規模」「クラフト」「個性的」「地域性」。これらはお酒に限った話ではありません。「大量生産」「工業的」「画一的」「グローバリズム」などに対する、ある種のアンチテーゼやカウンターカルチャーとして、世界的にさまざまなジャンルで同時に起きている大きな流れです。まずはクラフトビールやクラフトジンを飲みながら、こうした時代の移ろいを感じてみてはいかがでしょう。

子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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