「待て」か「すぐ」か

「お待たせしました。刺身の盛り合わせになります」「だし巻き玉子のほう、お持ちしました」「お会計はちょうど3000円をお預かりします」。いずれも飲食店のスタッフから聞くことの多いタイプの表現ですが、敬語にうるさい人にとってはちょっと耳ざわりかもしれません。

「『なります』って、別に何かが刺身に変化するわけじゃないだろ」「その『ほう』って単語に意味はあるのか?」「お金を預かった後に返してくれるの?」。こんなツッコミが聞こえてきそうです。私の考えはというと、自分自身はできるだけ「正しい」日本語を使いたいとは思うものの、言葉は移ろっていくものなので、目くじらを立てるようなことでもないかなというところです。

ただし、そんなスタンスの私でも個人的に気になってしまう言い回しが2つあります。そのうちのひとつは「少々お待ちください」というもの。注文をお願いしようとして「すみませーん」と手を挙げたものの、店員さんがちょっと忙しいときによく返される言葉です。

なぜ気になるのか。それは「少々お待ちください」というのは、言い回しは丁寧であっても相手に対して「待て」と言っていることにほかならないからです。知人の飲食店経営者も同じ考えで、彼は自店のスタッフに対してこの言葉を禁じています。では代わりに何と言うように指導しているかというと、「すぐうかがいます」というものです。

実際に「すぐ」に客席へ向かえるかはさておき、「すぐうかがいます」という言葉には、スタッフ自身の能動的なスタンスが込められているのです。「ちょっと時間をください」という本質的な意味は変わらないものの、相手に待てと言うのか、それとも自分が急ぎますと言うのか、両者が与える印象は実は大きく異なります。