――ビールの消費量がこの数年、減少し続けているという問題もあります。

キリングループの長期経営構想でも当社の中期経営計画でも、以前からマイナス市場の中でどう会社の体力をつけるかという課題に取り組んでいます。計画立案時より環境はさらに厳しくなりましたが、急にプラスがマイナスに転じたわけでも赤字が出たわけでもありません。大変なのは確かですが、逆に長期ビジョンや質的な成長へチャレンジするにはよい環境ではないでしょうか。

こういう時代にはまず、一番搾りや淡麗、のどごし〈生〉といった定番商品をしっかり強化することが大事です。また、健康志向の高まりに対応した商品を出してお客様のニーズに応えていく。昨年発売した麒麟ZEROに続き今年は淡麗W、キリンフリーを発売します。さらに、指をくわえてアルコール離れと嘆いていてはメーカーとして責任回避ですから、今まで以上に総需要拡大へ取り組み、ビール、焼酎、清涼飲料といった区分ではなく、飲料全体を捉えて業際にある隠れたニーズを引っ張り出す。商品戦略はこの3本柱でいこうと思っています。

――そのような取り組みを行う中で、求められる人材像は?

経済全体の成長の中で、過去の成功体験を引き継げば社員も会社も成長できる時代はとうに終わっています。現在は高度な専門性を持ち、自分のミッションをきっちり達成する人が求められます。自分に合った専門性の伸ばし方を、会社から与えられるのではなく自分で勉強する気概を持たないといけません。

専門性というと研究開発やマーケティングといった職種が思い浮かびますが、例えば営業現場でもお客様が買いやすく、当社にとっては売りやすく、お店にとっては全体の売り上げが増加するような提案ができるかどうかも一種の専門性です。しかし普通にやってもこういう人は育ちませんから、会社として育てる組織風土や仕組みを仕掛ける必要があります。「社員の自助努力」で済ませてはいけない。

ただ、高い専門性と目標を達成する能力だけを求めると、専門分野のプロにはなっても機能別組織の中に閉じこもってしまい、会社は部分最適に陥ります。だから私は「役割や部門の壁をいい意味で越境し、おせっかいを焼きなさい」と言っています。タコツボに陥らず、全体最適の視点で各機能を連携させていく能力を身につけてほしい。

一方で、我々はそういう取り組みが評価される会社にしていかなければいけません。そこは表裏一体で、せっかく越境しても「よそへ行って余計なことをするな!」と言われるようではいけない。