ペーパーレス化の恩恵は「エコ」だけじゃない

行政のオープン化も加速させていきます。まずは一層の情報公開のために条例を改正します。キャッチフレーズは「『のり弁』から『日の丸弁当』へ」です。黒塗りばかりで限定的だった情報公開の方針をあらため、「個人情報」という要所以外は原則として真っ白に公開することを目指します。

全国市民オンブズマン連絡会議の2011年度の調査では、東京都の情報公開度ランキングは47都道府県のうち44位タイでした。下位となった大きな理由は、手数料の高さでした。

このため公文書の閲覧手数料を10円から無料にあらためます。またコピー代は白黒1枚20円、カラー100円から、実費負担として白黒10円、カラー20円とします。コピー代で実費負担を求めるのは、情報公開請求の7割が営業目的だからです。営利企業の営業活動を都民の負担で助けるわけにはいきません。

同時に、公文書の開示は紙から電子データにシフトしていきます。ITを活用すれば、コピー代はかからず、実質的に無料となります。

知事に転身する直前まで務めていたルノーの社外取締役では多くを学びました。取締役会の机の上に紙は一枚もありませんでした。タブレットを活用することで、完全な「ペーパーレス」を実現していて、大変驚かされました。テレビ会議で世界のどこからでもBOD(取締役会)に参加します。グローバル企業なら、もはや当たり前の景色です。ちなみに、ゴーン社長のCEO室には書類棚さえありませんでした。この経験を踏まえて、都でもペーパーレス化を進めています。

ペーパーレス化を進めるのは、オフィスから離れて働く「テレワーク」の土台をつくるためです。紙を前提に仕事を組み立てていると、オフィスに集まって働く必要がありますが、ペーパーレスであれば、離れた場所でのテレビ会議もスムーズになります。

テレワークは東京五輪の成功とも関係があります。ロンドンでは、テレワークがオリンピックのレガシー(遺産)として定着しています。ロンドン大会中の交通混雑を緩和するため、企業へ在宅勤務を呼びかけたからです。多くの企業がテレワークやフレックス勤務に取り組むこととなり、その結果、混雑で有名なロンドンの地下鉄は、ラッシュ時でも観光客が座れる状態に改善したと聞きます。

混雑緩和は五輪の大きな課題です。リオ大会では道路に選手用の専用レーンを準備しました。ブラジルでは片側5車線の道路が珍しくないのでそれも可能でしたが、東京の首都高は片側2車線です。専用レーンを設けることは課題がともないます。たとえば東京大会の期間中、企業はテレワークだけで仕事を済ませる。もしそれが可能になれば、東京の交通や物流のシステムは、大きく変わることになるでしょう。それは大会のレガシーになります。大地震などで職員が登庁できない場合も、通信線が確保されていれば、都の機能が止まることはありません。

都庁では昨年、「20時完全退庁」を始めました。ペーパーレス化も、「働き方改革」のひとつです。都庁からモデルケースを発信していきながら、制度面においても企業でのテレワーク導入を後押ししていきます。

東京大改革のため、立ち止まっている時間はありません。2017年もみなさんと一緒に走り続けていきたいと思います。

小池百合子(こいけ・ゆりこ)
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。
(構成=藤井あきら 撮影=原 貴彦 写真=時事通信フォト)
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