仕事のやる気を高める3つの要素とは

では、やる気を高めるのはどんな仕事でしょうか。それを明らかにした代表的な理論が、ハックマンとオールダムの「職務再設計論(Work Redesign)」です。仕事をすることによって得られる報酬(外発的動機付け)ではなく、やること自体が面白い仕事(内発的動機付け)を設計しなければならない、というのが職務再設計論の考え方です。それによると、「仕事そのものが人を動機付ける度合い(MPS:Motivating Potential Score)」は、「仕事の有意義性」と「自律性」と「フィードバック」の掛け算によって決まります。仕事の有意義性とは、従業員がその仕事を有意義に感じる度合いであり、そのためには、多様な技術を用いる仕事であり、そのタスクが完結していて、重要性が高い必要があります。自律性は、目標は示されるにせよ、やり方は本人に任されている度合いです。そしてフィードバックは、仕事をしている中で、その結果や出来栄えについて知識を得られる度合いです。

モチベーションを左右する3つの要素

これら3つの関係は掛け算のため、どれか1つが欠落すればゼロになってしまいます。例えば、仕事の意義が十分理解でき、顧客からフィードバックが得られる仕事であっても、仕事のやり方を上司に細かく指示されるようだと、仕事としてその人を動機付ける度合いはゼロになります。

MPSが高まることによって成功した例に、北海道旭川市の旭山動物園があります。同動物園が有名になったのは、動物の生き生きとした姿を見せる「行動展示」を取り入れたからですが、それを始めるきっかけとなったのは、80年代に始めた「ワンポイントガイド」でした。当時、入園者数が伸び悩んでいた旭山動物園では、入園者に動物園のファンになってもらうために、飼育員自身が檻の前で動物について解説するガイドを始めたのです。すると、入園者の反応に直接触れられるようになり、入園者にもっと喜んでもらえるような理想の展示方法を考え、そのスケッチを描くようになります。やがて、そのスケッチが1つずつ実現し、理想の動物園へと変わっていきました。

このケースをMPSのフレームで考えると、ワンポイントガイドを始める前、飼育員の人たちは、命を預かる仕事に対する意義は大いに感じていました(仕事の有意義性)。また、動物ごとの専門性が高いため、飼育のやり方については各自に任されていました(自律性)。しかし、フィードバックは、動物たちが毎日、無事に生きていることくらいしかありませんでした。

ところが、ワンポイントガイドを始めたことによって、入園者からのフィードバックが得られるようになり、それに飼育員自身が責任をもって対応した結果、理想の動物園像を描けるようになります。仕事にそれまで欠けていたフィードバックが加わったことで、動機付けの度合いが高まり、飼育から「行動展示」へと自らの機能を発展させることができたのです。

部下のやる気を引き出したいのであれば、ぜひMPSの3つの視点から部下の仕事を見直してみてください。仕事の意義を改めて示したり、もう少し裁量や責任を与えたり、フィードバックの方法を工夫するなど、ちょっとした改善で、部下のモチベーションは劇的に高まるかもしれません。

(構成=増田忠英 写真=getty images)
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