「タイヤ世界王者」という“チャンピオンベルト”を8年連続防衛するブリヂストン。しかし常に「我々は1位では満足しない。断トツでなければならない」と繰り返す。何がそこまで彼らを駆り立てるのか。

リオ五輪レセプションで感極まったCEO

今年8月4日、ブラジル・リオデジャネイロ・オリンピック開会式のレセプション会場には各国の首脳や首長のほか、世界の往年の金メダリストをはじめ、世界のセレブリティが集まった。ブリヂストンCEOの津谷正明は、その列席者と順に挨拶を交わしていた。世界中で自社製品とオリンピックを絡めたキャンペーンができるワールドワイドオリンピックパートナーはわずか12社。名だたる企業が名乗りを上げるなか、初めてブリヂストンが選ばれたのは2014年6月13日のこと。津谷はその日を誰よりも待ち望んでいた。

ブリヂストンは、IOC(国際オリンピック委員会)との間で公式パートナー契約を締結(2014年6月13日の記者会見)。(写真=AFLO)

「正式に決まったときは、飛び上がらんばかりに嬉しかった」と津谷は振り返る。その席でIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長と挨拶を交わしたときに「あなたの会社には、“ジュクリョダンコウ”という言葉があるそうですね」と話しかけられた。外国人の発音を認識するまで一瞬の間が空いたが、それがブリヂストンで働く者すべての胸に刻まれた言葉だと気づいたとき、体中に戦慄が走った。「私たちを深く理解したうえで選んでいただいたことが、その一言で伝わり感動しました」(津谷)。

熟慮断行――物事を遂行するときは、様々な場面やあらゆる可能性を想定し、深く考えること。「本質は何か」を見定め、進むべき方向を決断すること。そして、スピード感をもって、忍耐強くやり遂げること――。ブリヂストンの創業者、石橋正二郎(1889~1976)が自らのポリシーを表したこの四字熟語は、今や企業理念の1つとして、150カ国以上に及ぶ全グループ社員約14万5000人の胸に刻まれている。熟慮断行を徹底した極東の一タイヤメーカーは、世界1位にまで上り詰めた。