「タイヤは、ほかのパーツと決定的に違うことがある。それは人の命を載せていることです」と取材したブリヂストンマンたちは口を揃えて言う。重量1トンを超えるクルマと、人の命を自分たちが支えているんだという自負がみなぎっている。だが華やかなカーメーカーと比べれば、タイヤメーカーはあまり日の当たらない存在であるのも事実だ。しかしどうだ。津谷がレセプションの列席者に社名を名乗れば「世界ナンバーワンのタイヤメーカーですね」と、誰もが微笑みを返してくる。
「石橋を叩いても渡らない――。」かつてブリヂストンはこう評され、熟慮しすぎる面がある企業だった。だが12年にCEOに就任した津谷は、次々と大きな決断を下している。米国では昨年12月、最終的には断念したものの、タイヤ販売大手ペップボーイズの買収を巡って投資家アイカーンと競り合った。フランスでは今年5月、国内に500店の販売網を抱える自動車整備大手スピーディー社を買収し、最大のライバルである仏ミシュランの販売網を上回る店舗を獲得している。そして、7月にはドイツ大手タイヤ小売チェーンのプノイハーゲ社との合弁事業をスタートすることを発表、ドイツ国内にも新たな販売網を構築する。
こうした展開に勢いをつけるためにも、自社のブランド力をさらに上げていくことが命題だ。ワールドワイドオリンピックパートナーに名乗りを上げた狙いもそこにある。「世界で事業を展開するために、パートナーになった意義は大きい。世界トップ企業の仲間入りができる可能性を見せてくれた」と、オリンピック・パラリンピック室を統括する副社長の西山麻比古は語る。
ブリヂストンは来年から5カ年の中期経営計画の最終目標に「真のグローバル企業を目指す」とともに「業界において全てに『断トツ』を目指す」の2つを掲げる。08年から8年連続で、タイヤ売り上げで世界ナンバーワンを維持する王者の強気とも受け取れるが、そうではない。「我々の現状は、目標からほど遠いところにある」と津谷は謙虚に語る。何がそこまでブリヂストンを駆り立てるのだろうか。