集中力を高めるためには、新浪医師が習慣化している2つの“儀式”も役立っているようだ。
一つは手術前に必ず達磨にお祈りすること。
「別に宗教を信じているわけではありませんが、難しい手術も多いので、最後は神頼み、仏頼みだと思っています。小さいころから川崎大師にお参りしていた関係で、そこで買ってきた達磨を教授室に置き、『今日の手術もうまくいくようにお願いします』と手を合わせてから手術に向かいます」
もう一つの方法が、夜寝る前に翌日の手術のプランを考えること。
「電子カルテなどをパパッと見て、頭の中でプランを設計します。ここが手術のキモだなとか。それが集中力アップになるかはわかりませんが、決まったパターンに持ち込めるので、最初の手術が何時からで、次は何時からでとスケジュールが組みやすいんです。もちろんイレギュラーも起きますが」
新浪医師は自分で執刀するようになってからの約20年間、この習慣を繰り返してきた。年間300例を超すほどの実績があるので、それに裏打ちされたパターンは豊富なバリエーションを持つ。数が質を担保しているのだ。
プラン通りに手術が進む確率は「通常は95%くらいですが、緊急手術の場合でも80%くらい」とかなりの高率だ。
寝る前に明日の仕事のプランを立てておくことは誰でもできる。翌日スケジュール通りに仕事をこなすためには参考にすべき習慣だ。
集中と弛緩のメリハリを
だが、いくら昼寝をしたり事前準備をしても、長時間にわたる仕事では集中力が途切れることもあるだろう。
新浪医師の場合は、長い手術の中にオンとオフを設けるという。たとえば心臓の手術は、冠動脈バイパス手術は人工心肺を使用せずにできるが弁の修復や大動脈の手術は心臓や大動脈の中にアプローチするため、人工心肺で患者の心臓をいったん止めることとなる。心臓が停止している間の手術は緊張感、集中力ともにマックスの状態だ。だが、その前後で体温を下げる時間や体温を戻す時間などがあるので、そこはあえてリラックスし、集中力のメリハリをつけている。それによって本当に必要なときに力が発揮できるのだ。
「3~4時間の手術なら、高い集中力が発揮できるのは、そのうち1時間半ほどです」