土台は「あれ、不満なかったな」
安易に「サプライズ」や「感動」を追いかけることは、土台となる基礎体力がないのに、運動センスを磨こうとするようなものです。それでは砂上の楼閣になりかねません。まずは土台となるサービスオペレーションを構築することが何よりも重要なのです。
そのために必要なのは、個々のスタッフが「観察して、察知すること」です。ビールグラスの残量をきちんと観察していれば、そのお客がお代わりを頼みそうかどうかはある程度察知できます。そうすれば、さりげなく近づいて「お代わりをお持ちしましょうか」と適切なタイミングで声をかけることができます。
あるいは、注文から時間が経っているのに、テーブルに料理があまり出ていないことを把握していれば、お客からクレームを言われる前に「お待たせして申し訳ありません。すぐにお持ちいたします」と先手を打つことができるわけです。
「感動」や「サプライズ」を否定しているわけでは決してありません。ただし、ベースとなるサービスができていないのに、優先順位を間違ってサプライズを追いかけるのは本末転倒です。「強く印象に残るサービス」が提供できるのは理想的なことです。しかし、その前に「サービスに不満がないことの素晴らしさ」はもっと理解されて良いことだと思うのです。
皆さんが飲食店に行った帰りに「あれ、特に不満はなかったな」と感じたら、その店は土台がきちんとできているということなのかもしれません。
子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/