そもそも「基礎体力」はあるか

サービスに関する書籍の中には、「伝説」「感動」「究極」「達人」のような修飾語が添えられたものが数多く存在します。そこでは高級ホテルや航空会社などにおける、顧客が思わず涙をこぼしてしまうようなストーリーの数々が紹介されています。サービスを強化しようと考えている飲食店の経営者や店長がこうした内容の影響を受けて、それを自店でも実践しようとする気持ちもわからなくはありません。

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基礎体力あってこその運動センス

しかし、サービスに定評のあるレストランを多数経営するヒュージの新川義弘さんはもっと冷静な捉え方をしています。飲食店のサービスをスポーツになぞらえて2層構造で考えているのです。土台にあるのは「基礎体力」、そしてその上に「運動センス」が乗ってくるというイメージです。ある程度きちんとスポーツをするためには、最低限の体力や筋力が欠かせません。これがあってはじめて、運動神経が生きてくるというわけです。

飲食店における「基礎体力」とは、お客をきちんと迎えて席に案内し、注文を的確に取り、待たせることなく飲み物や料理を提供し、金額を間違えずにお代を頂戴し、笑顔で送り出すこと。当たり前のようですが、安定してこうした一連の業務をこなすのは、実は難易度が高いものです。お客が少ない雨降りの月曜日ならできても、給料日明けの金曜日に満席の店内で果たして同じようにできるのかと問われると、自信を持てない飲食店は多いことでしょう。

こうした基礎体力、すなわち安定したオペレーションを土台として、そのうえにスペシャルな要素が加わるのが理想です。それは「一度しか来ていないお客のことを記憶している」だったり、「お客の好みやシーンにあわせて、望ましい飲み物や料理の提案ができる」だったり、というものです。