もう一つは高齢者施設の世界化である。タイのチェンマイにドイツ人が経営するパッシブシニア(外出困難な高齢者)向けの施設があって、見学に行ったことがある。入所していたのはドイツ人やスイス人、スウェーデン人だったが、1人につき現地の女性が3人ついて、8時間ごとに3交替、24時間体制で懇切丁寧に面倒を見ていた。施設は入所者の年金を原資に運営されていて、スイス人やドイツ人の年金の半額、月額12万円くらいで食費や医療費、人件費などすべてが賄われている。

人手不足で労賃も高く、土地代も高い日本国内で、高齢者施設をいかに拡充していくかという課題に対する答えを見つけるのは非常に難しい。そこで解を国外に求める。つまり労賃や土地代の安い海外に高齢者施設をつくるのだ。それも1つの場所に固めてつくることが大事で、そうすることで介護士の養成や訓練、人材募集などもまとめてできるし、(日本語ができる)病院を併設することもできる。私が見学したチェンマイの施設程度なら全部足しても2000万円くらいでつくれるし、施設の入居費は日本でもらう年金で十分に賄える。

私は1995年に東京都知事選に出たときから、日本の介護問題を抜本的に解決するには移民を認めるか、施設を海外に持っていくしかないと主張してきた。オーストラリア北西部のイスマスに米軍が撤退した空港完備の広大な土地があるから、東京都が買い取るか100年リースで借りて病院や介護施設をつくるべし、という具体案も当時、提示した。高齢者虐待の急増や前述した事件・事故の頻発は、その頃よりも状況が悪化していることを物語っている。国内だけの、その場しのぎの解決策ではもはや立ちいかないことを、国や自治体が自覚しなければ、状況はますますひどくなるだろう。

(小川 剛=構成 時事通信フォト=写真)
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