「絵本で入選」という野望

中学生にもなると、ある程度ボリュームのある難しい本を選んで読まなくてはならない、というような空気になります。でも、夏休みにはやりたいことがたくさんあって、ボリュームのある難しい本を読むのはとてもつらく、できれば避けたいことでした。そこで、逆に数十ページくらいしかない児童向けの絵本で読書感想文を書くことを思いつきました。

すると、「絵本で書いた読書感想文で入選する」という目標が勝手に湧き上がってきました。入選すれば、例年一緒に読んだ本もセットで掲示されていたので、先生やみんなを驚かせてはじめて、この企みは成功します。あえて絵本を選ぶ以上、入選しなければ意味がありません。

絵本で入選するという目標を立てたら、俄然テンションが上がりました。宿題なんて嫌で嫌でしかたなかったのに、「工夫」によってむしろやる気に火がついたのです。

選んだのは『夜をつけよう』というタイトルの絵本です。夜の暗闇が嫌いな男の子に、「勇気をもって目を開けてごらん。星空も見えるし、街灯も光っているし、夜って明るいんだよ」と語りかける内容です。この話を自分の幼少期の経験にあてはめながら、「僕たちにとって暗闇とは何か」というテーマで読書感想文を書きました。絵本で入選するには、本の中のテーマや世界観を壮大に膨らませ、様々な視点から考察する「工夫」が必要でした。むしろ、工夫するしかありません。そして見事、入選を果たしました。

中学生にもなって、絵本で読書感想文を書くというのは、見方によっては“ズルい”かもしれません。ある程度のボリュームの本を選ぶことが“まとも”だとするなら、たしかにズルい。でも、僕がまともな正攻法でやった場合は、もっといい加減な結果になっていたのだと思います。

ボリュームがある本を嫌々読みはじめても、ズルい中学生だった僕はおそらく「面倒だからあとがきを写しちゃえ」ということになって、とにかく宿題をこなすだけ、何の学びにも成果にもならなかったと思います。正攻法で努力できなくても、自分なりのマニアックな手法で工夫することによって、むしろやる気も高まり、楽しみながら自分なりの解釈や表現を凝らすこともできました。