破壊ではなく、「脱力」する
去る11月17日、初の単著である『創造的脱力――かたい社会に変化をつくる、ゆるいコミュニケーション論(光文社新書)』を出版しました。これまでに行ってきた実験的な取り組みは、PRの機会には恵まれ、賛否両論ありましたが、どうしても表層的なイメージが先行しました。
そこで、まちづくりなんて考えたこともなかった女子高生が中心の「鯖江市役所JK課」や、全員がニートで取締役、会社としては最初から破綻している「NEET株式会社」など、どんな意図や想いがあったのか、そして、そこでどんなことが起こっているのか、実話をたくさん盛り込み、まとめました。
タイトルになっている「創造的脱力」ですが、これは、経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが唱えた「創造的破壊」から連想してつくった言葉です。「創造的破壊」は、社会に新しい方法が生みだされる「イノベーション」の際には、古い非効率的なものは駆逐・破壊されながら新陳代謝されていくというものです。たしかに、新しいものが生まれて定着した結果として、古いものが破壊されてしまうというのは当然のことだと思います。しかしこれは、あくまでも結果の状態の話です。
現実には、古いものを正面から破壊しようとしても、なかなかうまくいきません。古い文化やシステムをつくっているのは、生々しい「人間」の集合体です。複雑な感情や思惑がうずまいていて、簡単には変化を受け容れてくれないし、席も譲ってくれません。隙や詰めの甘さを見せたら、一瞬で潰されてしまいます。
しかし、変化の激しい現代社会においては、隙のない完璧な「新しい答え」や「ソリューション」を準備して、一発で差し替えるなんてことはほとんど不可能だと思うのです。悩んだりとまどったりしながらも、変化や広がりを楽しみながら、いろいろなやり方やスタイルを試行錯誤していく脱力的なアプローチが必要です。