マニアックすぎない線はどこか
実はマルザックの母体企業は、渋谷の駅前で「東京トンテキ」という超繁盛店を経営しています。トンテキは三重県四日市のB級グルメですが、東京トンテキでは分厚い豚肉をスピーディかつ柔らかく提供するために、あらかじめコンフィして、それをフライパンでソテーして仕上げるというスタイルを採用しています。「ワインを楽しめる新店舗を出したい」というオーナーからの依頼を受けて、最終的にたどり着いたのは、すでに既存店でさんざんやっていた「コンフィ→仕上げ」という独自の「資産」だったのです。
アイディアを考え出すにあたって、すでにどこかで流行っているからというように、自身と無縁のことを入り口にするのはあまり良い手ではないと私は考えています。もちろんブームに乗って短期的に売り逃げれば良いというのであれば話は別ですが、長く愛される店をつくりたいのであれば、まずは自らのルーツや資産を掘り下げることにこそ、そのチャンスがあるはずです。これが私たちのコンセプトづくりの最初のポイントです。
そして意識しているもう1点の「程よいニッチ」とは、メジャーでもマニアックでもない、その中間の絶妙な落としどころの見極めです。メジャーなものはすでに出尽くしてしまっていますが、かといって時代を見誤って超マニアックになると今度は独りよがりで裾野の狭い店になってしまいます。独自のメッセージ性を出しながらも、少しでも多くのお客さんに反応してもらえること。これが「程よいニッチ」の意味するところです。
そういう意味では「炭焼コンフィ」は、東京マーケットにおいては、その程よいニッチ具合を発揮できていると思っています。ちょっとグルメな人にとっては「コンフィってあのコンフィでしょ? それを炭焼きにするってどういうこと?」と関心を持ってもらっているのです。
「資産を生かせること」と「程よいニッチであること」。もちろん対象となる業種業態にもよるでしょうが、コンセプトを考えるにあたっては、これらは効果的な視点として使えるのではないでしょうか。
子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食コンサルタント。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/