比類ないオリジナリティを

店をつくっていく際に、数ある要素の中で一番頭を悩ませるのが「コンセプト」です。正直に言えば、自分が何度も通っている好きな飲食店に果たしてコンセプトがあるのかと言うと、答えはノーであることが多いかもしれません。「おいしくて、手頃な値段で、店主の感じが良い焼鳥屋」であることは、コンセプトとは言えないでしょう。

「おいしくて、手頃な値段で、店主の感じが良い焼鳥屋」は、あくまでも結果です。多くの人を巻き込みながらプロジェクトを立ち上げて進めていくうえでは、やはり競合店と差異化をしたり、具体的なメニューや内装デザインなどに繋がっていったりするコンセプトが有効なケースは多いと思います。

しかし、差異化やプランの落とし込みに有効なコンセプトを考え出すというのは、相当に難易度の高い業務です。そんな中、私が意識しているのは主に次の2点です。ひとつは「クライアント(実際に店舗を経営する人や会社)の資産を生かせること」。そしてもうひとつは最終的な見え方が「程よくニッチであること」です。

具体例で説明しましょう。私たちが関わったお店に「マルザック」(東京・青山)があります。こちらのコンセプトであり、そのまま名物メニューとなっているのは「炭焼コンフィ」です。コンフィとは、フランス料理でよく使われる調理法ですが、素材を油で「揚げる」のではなく「煮る」ことで、しっとりと柔らかく仕上げることができます。

同店では、豚肉や鴨肉、あるいはサバなどの魚介類をコンフィして、それを最後に炭火で炙ることで、表面はパリッと香ばしく、中はしっとりとした状態で提供しています。コンフィを出す飲食店はたくさんありますが、この「炭焼コンフィ」は私の知る限りでは、他では見たことのないオリジナルな料理です。