「明日死ぬかもしれない」「死ぬまで成長したい」
【弘兼】では、いつからいまの柳井さんに変わったんでしょうか。
【柳井】ビジネスを始めてからでしょうね。23歳のときに、親父が「これからはおまえがやれ」と小郡商事の実印と銀行通帳をくれた。もうしょうがないです。もう逃げられないと。仕事がその人をつくるんじゃないかと思います。やはり僕には商売人という感覚がありますから。
【弘兼】父親の影響もありますか?
【柳井】尊敬する部分と、そうじゃない部分、教師と反面教師の部分がありますね。その2つの間で、自分というものを自分で発見するということが必要なんだと思います。僕は飯を食うのがすごく速いんですけど、それはゆっくり食べていると親父に怒られたからなんです。それで悪い癖がついて。これは反面教師ですね。
【弘兼】なかば無理矢理に会社を任されたわけですよね。もっと自分に向いている仕事があるんじゃないか、と不安に思ったことはないですか。
【柳井】ほとんどの人が実際にそうなんですけど、与えられたものでしか自己実現はできないと思っているんです。いま持っているものでしか自己実現はできない。僕はいつも「人間のピークは25歳」と言っているんです。
我々のようなビジネスマンでも、弘兼先生のような漫画家でも、あるいはスポーツ選手、芸能人、学者、政治家でも、自分の才能にいつ気付けるかは、人によって違う。ただし、いずれにしても、自分の持っている才能のもとは、だいたい25歳ぐらいまでにできている。その才能にいつ気付けるか、という違いなんです。
【弘兼】飽くなき成長志向を持つ柳井さんは、天性の経営者だと思います。一方で、そのスピードについていけないという人もいるのでは?
【柳井】でも、僕も最近、宗旨は替えたんですよ。重要なのは、スピードよりも、成長し続けること。僕は死ぬまで成長したい。それが一番いい人生だと思うんですよね。
若い人は残り時間がたくさんあると錯覚しているけど、いつ死ぬかはわからない。明日死ぬかもしれない。
それなら今日が最後の日だと思って、行動するべきです。若いころはぼやっとして、わからないですよね。僕もそれがわかったのは35歳ぐらいなので、ほとんどの人がそうだと思うんですよ。最終的な目標を決めて、それに対して具体的に行動しなければ、あなたの人生とほかの人の人生は違わないかもしれない。それではあまり意味がないんじゃないかなと、僕は思うんです。