茨城県つくば市のベンチャー、サイバーダイン。急拡大が予想されるロボット分野の先端企業だ。2014年3月に上場を果たし、株価が急騰。前期の売上高は約4億円、営業損益は約11億円の赤字だが、時価総額は2000億円に達している。市場の期待を引っ張るのが、日本で唯一、現職の大学教授でありながら、上場企業の社長を務める山海嘉之だ。弘兼憲史が「子どものような人」と驚いた独自の発想法とは――。

脳の信号を読み取り体の動きを助ける

【弘兼】世界初のサイボーグ型ロボット「HAL」を試してきました。映画『2001年宇宙の旅』の人工知能コンピュータと同じ名前ですね。映画にちなんだのですか?

サイバーダイン社長 山海嘉之(さんかい・よしゆき)
1958年、岡山県生まれ。82年茨城大学工学部卒業。87年筑波大学大学院工学研究科博士課程修了。2004年より筑波大学大学院システム情報工学研究科教授(現任)。91年よりロボットスーツ「HAL」の基礎研究を開始。04年に大学発ベンチャーとしてサイバーダインを設立。同社は14年東証マザーズに上場した。

【山海】いいえ。SF映画は私も好きですが、偶然です(笑)。HALは「随意制御」と「自律制御」という2つの制御手法を組み合わせています。そのため「Hybrid Assistive Limb」の頭文字をとりました。

【弘兼】随意制御とは聞き慣れません。

【山海】随意制御とは、皮膚に貼り付けたセンサーで、脳から筋肉に送られる神経信号を読み取ることで動作する仕組みのことです。

【弘兼】皮膚に脳の信号が?

【山海】脳から筋肉へと神経信号が伝わる過程で皮膚表面に微弱な「生体電位信号」が漏れ出ているのです。

【弘兼】皮膚に脳の信号が漏れ出ているなんて考えたこともなかった。

【山海】人は「歩きたい」と考えると、脳から神経を通じて、筋肉に神経信号を送ります。HALはこれを読み取り、装着者が「どこの筋肉を、どれぐらいの強さで動かしたいか」を認識します。これが「随意制御」。さらに「自律制御」では重心の移動などからロボットが独自の判断で動きます。この2つを組み合わせているのが最大の特徴です。

【弘兼】HALは下半身に障害がある方のトレーニングに使われています。

【山海】脳は筋肉に信号を送るだけでなく、実際に体が「どういう信号で、どのように動いたか」を確認します。HALで歩行をアシストすると、脳には「歩けた」という感覚のフィードバックが送られる。脳に対して歩くために必要な信号の出し方を学習させることができるんです。

【弘兼】体の動きを助けることで、脳の機能が回復する。そんな力が人間にはあるんですね。

【山海】ええ。脳卒中を2回起こし、自立歩行が困難になった方がHALを使ってトレーニングし、ジョギングするまでに回復した例もあります。