弘兼憲史の着眼点

▼「好き」を突き詰めた子どものような人

いい意味で「子どものような人」というのが山海さんの印象でした。

今回、訪ねた「サイバーダインスタジオ」には、『アイアンマン』や『ターミネーター』といった映画に出てくるロボットの原寸大の模型が並んでいます。さらにガラスケースの中には、映画『禁断の惑星』のロボット、アニメ『鉄人28号』のブリキの玩具が。不純なぼくなどは、このブリキの玩具を売ればいい値段になるだろうなぁ、なんて考えてしまいました。山海さんは子どもの頃から本当にロボットが好きなのですね。

いい意味での子どもっぽさは、細部への拘りにも表れていました。

サイバーダインの「C」の文字を模ったロゴマークはSF映画に出てきそうな近未来的なデザインです。商品であるHALも、造形の細やかさに目を見張りました。格好よくないものは作らないという、山海さんの美学が表れていました。すぐれた技術をいち早く取り入れ、デザインにも徹底的にこだわるという点では、アップルを率いたスティーブ・ジョブズと近いかもしれません。2人とも「好き」を突き詰めて起業したという共通点もありますね。

ビジネスマンでありながら、科学者でもあるというのが、これまでの日本の経営者と山海さんの大きな違いです。技術を深いところまで理解しているからなのか、とにかく説明がうまい。ジョブズやソフトバンクの孫正義さんのように鮮やかな説明ぶりでした。サイバーダインのHALは日本より先にドイツで医療器具として認められています。世界に展開する企業のトップには、彼のようなプレゼン能力が求められるでしょう。

▼介護対策からゴルフまで応用範囲は無限にある

今後、日本をはじめ、先進諸国では高齢化が進みます。介護が必要な人が増える一方、働ける人は減っていく。これからHALのようなロボットへの需要はますます高まっていくはずです。

またHALの技術は、さまざまな分野に応用できるでしょう。

例えばゴルフのスイング矯正マシン。HALは「随意制御」と「自律制御」の組み合わせですから、プロゴルファーのスイングを体に覚え込ませることもできそうです。石川遼や松山英樹、タイガー・ウッズなど、好きなプロゴルファーのスイングを自分のものにできたら楽しいですね。ただ、普通の人の身体能力では、男子プロと同じスイングでは負担が大きいでしょうから、ぼくの年代なら女子プロの選手がいいかもしれません。

ロボットの可能性は無限ですね。サイバーダインには要注目です。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。
(田崎健太=構成 永井 浩=撮影)
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