「玉塚元社長は優秀。僕が異常なだけです」

【弘兼】アメリカでは、現場のブルーワーカーほど余暇が長く、トップに近づくほど忙しくなると聞きます。

【柳井】トップはすぐクビになりますが、その代わり給料が高い。日本の3倍から10倍ぐらいですね。だから多くの経営幹部には、徹底した自営業者の意識がある。時折びっくりします。家族のように付き合っていた人でも、報酬の話になると「弁護士を通して話しましょう」となる。そういうところは、外国人と日本人では違いますよね。

【弘兼】企業側も、クビにした社員は翌日から事務所に入れず、パソコンやロッカーも凍結してしまう。雇用関係はドライでシビアですね。

【柳井】外資系はそうでしょうね。うちは違います。辞めた人たちは卒業生として、いい関係を続けたいというふうに思っています。

【弘兼】それは外国にはない日本のいいところですね。

【柳井】いつどこで会うかもわかりません。敵であるより味方のほうがいいですよね。辞めるときには、だいたい僕のところへ挨拶に来るんですけど、そのときに「何か困ったことがあれば来てくれ、僕にできることだったら何でもします」と言って送り出しています。そういうことが、僕は大事だと思います。

【弘兼】かつての部下が、他社で活躍しているのはうれしいですか。

【柳井】活躍してくれないと困ります。「ユニクロにいたんだけど、全然役に立たなかった」と言われるのはダメですよね。「やっぱりユニクロから来た人はすごいな」というふうに言われたほうがいいですから。

【弘兼】他社で活躍する卒業生といえば、2002年から05年まで、柳井さんに代わってFRの社長を務めた玉塚元一さんが、2014年にローソンの社長に就任しましたね。

(上)2014年5月、ユニクロの地域正社員説明会に集まった参加者。(下)2005年7月、東京証券取引所での記者会見。玉塚元一氏(右端)が社長を辞任し、柳井会長が社長を兼務すると発表した。(時事通信フォト=写真)

【柳井】彼は優秀です。よく勘違いされているんですけど、僕がクビにしたんじゃない。彼が「辞めたい」と言ったんです。彼の考える経営者像と僕の考える経営者像が、ちょっと違っていた。彼はすごくまとも。僕が異常なんですよ(笑)。

僕の考え方はベンチャービジネスなので、急成長を遂げたあとには海外に出て行こうと考えました。だから、そのための人材や仕組みを早急に整えたかった。一方、彼は01年に4100億円あった売り上げが、02年に3400億円、03年に3000億円と急減した時期に立て直しみたいなことをやったので、もっと安定成長したいと思っていた。そのことが僕にはよくないように見えたんです。そんな認識の違いがあった。

今回、ローソンという大会社の社長になりました。社内向けの講演を頼まれて引き受けたこともあります。(セブン&アイHD会長の)鈴木敏文さんには怒られるかもしれないけど、セブン-イレブンに匹敵するか、超えるような会社になってもらいたいなというふうに思います。

【弘兼】僕もアシスタントのなかには、漫画家として独立したやつがいます。ライバルでもあるのですが、彼らがヒット作を出すとうれしいんですね。

【柳井】玉塚君もそうだし、ほかの人もそうなんですけどね。ユニクロでの経験が役立ったと言ってもらえることは、やはりうれしいですよね。