なぜ賃上げは消費喚起につながらないのか

経営側も経労委報告が求めた年収ベースの賃上げに一定の理解を示しながらも、毎年の定期昇給(定昇)、賞与など固定的な負担増に直接跳ね返るベアにはこだわらず、より現実面を重視する姿勢を色濃くしている。経営的には、3年連続のベア実施となれば、人件費上昇が経営を圧迫しかねない。加えて、年初から続く世界規模での金融市場の混乱、さらに原油価格の下落、新興国経済の不振と、今後の業績への懸念材料が重なり、ここにきて経営側の賃上げ気運が急速に萎みつつあるのが現実だ。

異例ともいえる3年連続の賃金上昇を“督促”し、さながら「官製春闘」を仕立て上げる安倍政権に擦り寄る経団連の榊原定征会長は、「企業は積極果敢な経営を通じて収益を拡大し、その成果を賃上げにつなげるよう最大限の努力を」と訴えたところで、経営的にはおいそれとは従えない。その結果、企業、業種によって賃上げへの温度差は広がるばかりだ。

一方、賃上げが安倍政権の唱える「成長と分配の好循環」につなげられるかに確証はない。企業が賃上げしても上昇分の半分近くが社会保険料の増加で打ち消され、手取り収入が伸び悩んでいるのが現実だからだ。経団連が会員企業を対象に実施した調査によれば、2014年度は年収ベースの平均給与額が2年前に比べ11万円強増えたにもかかわらず、保険料負担は5万円強増え、賃上げが消費喚起につながらない現状を裏付ける。

経団連会員企業は大企業であり、賃上げがままならない中小企業を考慮すればなおさらだ。そんな折り、マイナス金利政策発表にもかかわらず、市場関係者が「黒田ライン」と呼ぶ「日経平均株価1万5000円、1ドル=115円の円相場」はあっさり崩れた。これに伴い企業マインドが一段と萎縮すれば、賃上げペースは緩み、アベノミクスの屋台骨を揺らがし、今春闘の行方がアベノミクスに再考を迫りかねない。

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