資本主義そのものを俎上に載せた議論が盛んだ。世界的ベストセラー『21世紀の資本』(トマ・ピケティ著、みすず書房)を筆頭に、類書を平積みにした書店も目立つ。その中で、「会社」を切り口に現代資本主義の病弊を鋭く分析したのが本書である。副題の“ピケティに欠けている株式会社という視点”が率直でわかりやすい。

奥村 宏(おくむら・ひろし)
会社学研究家、商学博士。1930年生まれ。岡山大学法文学部卒業。産経新聞記者、日本証券経済研究所主任研究員、中央大学商学部教授等を歴任。著書に『法人資本主義』『会社はどこへ行く』『エンロンの衝撃』ほか多数。

「マルクスが『資本論』を書いた時代に、近代株式会社が成立します。それから150年前後が経過した今、資本主義を支えてきた株式会社は巨大化し、病んでいる。そのことが資本主義を危機に至らしめているのです。そこに焦点を当てずに、資本主義を抽象的に議論するだけでは何も解決しません」

著者にとって本書は55冊目の単著である。永年の研究成果が実にコンパクトにまとめられている。自ら先駆して命名した「法人資本主義」論を基盤に過去40年間、現代資本主義を“会社学”の観点から探究してきた。

1970年代以降、世界に台頭してきた新自由主義と巨大株式会社の関係が孕む問題は、著者が取り組む研究のまさに中核だ。

「新自由主義の登場で規制緩和と国有企業の民営化が進められました。また、リーマンショックでも巨大銀行や巨大株式会社を公的資金、つまり国民の税金で救済する。ところが一方では、救われた側の企業経営者たちが巨富を得た。格差の問題もそこから露呈し、浮上しました」

巨大企業の挫折を国民の税金で救済する各国政府の無責任・無策ぶりには、すでに多くの批判がある。だが、本書が摘出した病因は、「株式会社の有限責任」や「資本金を超える投資」といった具体的かつ根本的な問題だ。

そこから抉り出されるのは、資本主義の原理・原則を逸脱して巨大化した株式会社が母体の資本主義を追い詰めているという逆説であり、それこそが、いま直面する危機の本質的な実態なのである。

「車が交通ルールを無視して赤信号を突き進めば当然、他車を置き去りにして先頭に立ちます。でも、その車がいつか大事故を起こすのは必然でしょう?(笑)」

グローバリズムを撒き散らして世界中に出口を求める巨大企業の“事故”はすでに何度も目撃した。巨大企業にこそダウンサイジングが必要なのだ。

(永井 浩=撮影)
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