日立製作所会長兼社長 川村 隆(かわむら・たかし)
1939年、北海道生まれ。62年東大工学部卒業後、日立製作所に入社。99年に代表取締役副社長。2003年以降、複数の子会社会長に就任。07年に日立本体の取締役を退任。今年4月から現職。


 

グループ会社に退いた実力者が本体トップに呼び戻される異例の人事だった。日立プラントテクノロジーと日立マクセルの会長を務めていた川村隆氏が、日立製作所に会長兼社長として復帰した。前社長の古川一夫氏より7歳年上の69歳。東大工学部卒業後、日立に入社し、電力など重電畑を歩み、日立工場長も経験した。「東大工卒、日立工場長、重電出身」の3条件は、日立の保守本流。社長の座を約束されたエリートコースである。

だが、電機業界にデジタル化の波が押し寄せる中、旧習は否定され、社長の座は、重電畑の金井務氏から家電畑の庄山悦彦氏へと移る。その後、東工大卒で非重電の庄山氏は後継社長に情報通信畑の古川氏を指名し、保守本流はしばらく途絶えていた。

川村氏の社長就任を阻んだ流れはその後、一転する。躍進が期待されたデジタル家電で庄山・古川コンビは大きくつまずく。「技術は超一流」とされながら、出遅れた薄型テレビはその典型。半導体も市況悪化で窮地に陥った。その結果が2009年3月期の国内最大規模の連結純損失7000億円である。

冷蔵庫では、リサイクル樹脂活用などの謳い文句が嘘だったという“省エネ表示偽装”が発覚した。当初予定を変更し、庄山氏が取締役会議長、古川氏が副会長をそれぞれ退任し、取締役も退くのは当然のけじめといえる。

川村氏は4月20日の記者会見で、半導体関連会社を念頭に公的資金の活用検討を表明した。デジタル家電は7月に分社化する方向で、日立の構造改革が急ピッチで進む。「総合路線から軸足を移す」とする川村氏。今後の焦点は「総合電機の雄」という伝統の金看板だ。この看板を維持するのか、それとも完全に外すのか。登板の遅れたエースの投球に注目が集まる。