店長にとって辛いのは、育てた部下に辞められることだ。そこから学んだのが「先を示すこと」。店舗の繁忙期なら「来週のピークを超えるまで頑張ろう」と伝え、時には終業後に酒を酌み交わして「仕事を通じて得られるキャリアづくり」を語る。

中村氏が仕事に使っている私物。アップル製品を愛用する。

足立西新井店は、そうやって築き上げた一体感のある職場だ。ちょっとした異変でも、中村さんにはすぐに感じ取れるという。たとえば、日常の接客中に会話のトーンがほんのわずか変化することがある。

「店内の喧噪の中でもスタッフの声が“浮いて”聞こえます。その声色からクレームの重さが察知できるので、早めに私自身が対応してトラブルの芽を小さいうちに摘むようにしています」

来店客の9割が常識人で、その半数は「本当にいい人たち」だというが、まれには激昂する客もいるし、店側が重大なミスを犯していることもある。対応を誤れば店全体の業務に支障が出る。だから責任者の中村さんが早めに乗り出し、話がこじれるのを防ぐのだ。

対応にもコツがある。相手の声の大小ではなく中身で判断し、丁重に詫びることもいとわない。

「お客様には『こちらの言い分を突っぱねるのではないか』『誠実に対応しないのではないか』という不信感がありますから、まずはそれを取り除きます」

そのうえで、「相互理解」を深めるのだ。

若きベテラン店長には、かつての部下が他店の店長となった今でも、相談の電話がかかってくる。

「中村さんしか思い浮かびませんでした」と言われるとうれしい、と笑う。その相談に応えることで、対応の引き出しも増やしているようだ。

※役職名は当時

(永井 浩=撮影)
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