野党党首の発言と首相の発言は違う

【塩田】民主党政権の3年3カ月のうち、北澤さんは3分の2に当たる2年間、鳩山、菅の両内閣で防衛相を務め、防衛政策や沖縄問題で主導的な役割を担いました。

【北澤】防衛相就任は、政権獲得前に参議院の外交防衛委員長を頼まれ、防衛省の内情を勉強していたというのが、鳩山さんの頭のどこかにあったのでしょう。

【塩田】鳩山首相は就任直前の野党時代に、米軍普天間飛行場移設問題について沖縄で「できれば海外、最低でも県外」と発言し、政権担当後、困難とわかって前言撤回し、社会党の連立離脱、支持率低落などを招いて早期退陣の大きな原因の一つとなりました。

【北澤】鳩山さんの発言は、野党の党首として、沖縄の基地負担の軽減という基本的な考えと、もう一つ、前々から唱えてきた「常時駐留なき安保」という考え方が根底にあり、象徴的な意味で、戦略的に喋ったんです。だけど、野党党首として言ったことと、首相となった後に現実を踏まえてどうするかという2つの問題を全部、一緒にしてしまった。後の祭りですが、「そういう思いで闘ってきたけど、今すぐ日米間の合意事項を反古にするわけにいかないから、代わりに基地負担の軽減について最大の努力をする」という言い方をすれば、あんな混乱は起きなかったと思います。

あの問題では、鳩山さんは「海外、県外」にはかなりこだわっていた。理想を掲げてやればできるという考えがあったと思います。ですが、普天間問題の発端となった1996年の橋本龍太郎元首相と当時のウォルター・モンデール駐日米大使との合意の重さをどのくらいに考えていたかとなると、私を任命してくれた総理に申し訳ないけど、少し認識が浅かったかなという気がしました。

【塩田】実際に鳩山政権が動き始めて防衛相として鳩山発言問題にどう対処しましたか。

【北澤】沖縄のみなさんを失望させないことと、期待を膨らませすぎないことの2つが大事だと思い、早い段階から日米の合意事項の辺野古移設という原案に返るべきだと打ち出したんです。岡田克也外相(現民主党代表)は真面目な人だから、外務省からのヒアリングを受けて嘉手納基地への統合案が現実的だと思い、「どうしてできなかったのか、裏側の検証をどうしてもやりたい」と言った。私はこの案は無理だと思ったので、「検証の期限は2009年12月いっぱいですよ」と答えた。岡田さんは「駄目だったら、辺野古移設の原案に戻る」と率直に言った。結果的に岡田さんは私と同じ方針でいくことになった。

私は鳩山さんにはいろいろとお話をした。あの人は全部よく聞く人で、最終的には納得してくれました。沖縄基地の抑止力の点については、この問題に詳しい岡本行夫さん(外交評論家。元外務省北米一課長)に鳩山さんのところへ説明に行ってもらいました。

【塩田】途中で移設先として鹿児島県の馬毛島案とか徳之島案の話が飛び交いました。

【北澤】徳之島案は当時の平野博文官房長官の提案でした。使われていない古い滑走路があり、それを活用したいと言って、ご執心だった。ですが、地元がとてもまとまらない。それに徳之島は海兵隊が常駐しているところから距離がありすぎて、米軍が反対だった。

馬毛島は平地の無人島で、3000メートル級の滑走路をつくれるのですが、普天間基地移設とはまったく話が違っていて、航空母艦の離発着の訓練場(FCLP)として日本が用意することになっていました。私はこのFCLPと東日本大震災、特に福島第1原発の事故の教訓から無人機の訓練に利用、活用できると思い、熱心に取り組みました。

北澤俊美(きたざわ・としみ)
参議院議員・民主党副代表兼安全保障総合調査会長・元防衛相
1938年3月、長野県更級郡川中島村(現長野市)生まれ(現在、77歳)。長野県立屋代高校、早稲田大学法学部卒。前田道路に就職し、サラリーマンの後、死去した父・北澤貞一(元長野県議)の後継者として75年に長野県議に(5期)。92年の参院選に自民党公認で当選(長野選挙区。以後、当選4回)。中央政界では羽田孜元首相の側近として活躍。93年に自民党を離党して新生党の結党に参加。新進党、太陽党、細川護煕元首相らのフロムファイブ、民政党を経て、98年に民主党に。2000年に民主党参議院幹事長。参議院の国土交通委員長、外交防衛委員長を歴任した後、09年9月から11年9月まで鳩山由紀夫内閣と菅直人内閣で防衛相を務める。2015年の通常国会では、安全保障関連法案を審議する参議院安保特別委(我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会)の筆頭理事として腕を振るった。『日本に自衛隊が必要な理由』という題の著書がある。「77歳の今でもスキーはやるし、ゴルフも大好き。ほかに趣味は陶芸と畑仕事」と話している。
(尾崎三朗=撮影)
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