日本を守れない事態は当面想定できない
【塩田】北澤さん自身の集団的自衛権と安保法案についての基本的な考え方は。
【北澤】日本の戦後70年の歩みはすごく貴重で、こんなことができた国は世界中にないと私は思っています。それは憲法が基にあった。一方で、自衛隊は精強な組織にしなければという一面があります。2年間、防衛相をやりましたが、シビリアンコントロールと防衛予算の範囲内で、どれだけのことができるか、それがいつも頭の中にあり、憲法第9条の範囲でやれることは全部やろう、と私は思った。2009年以前の自民党政権時代は基盤的防衛力構想でやってきたのを、私の防衛相時代に初めて動的防衛力に切り替え、南西方面重視の体制にして、防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画をつくりましたが、基本的に憲法9条が基本になって、日本の防衛体制はでき上がっています。
ですが、憲法に自衛隊の規定がない。東日本大震災のときにしみじみ感じましたが、優秀で、これだけ国のために頑張る隊員たちの存在が憲法に書き込まれていないのは不自然です。もし憲法改正が本当に政治課題になれば、そこは書き込まなければと思っています。
【塩田】憲法で認められる自衛権の範囲についてはどうお考えですか。
【北澤】安全保障を巡る国際環境は間違いなく変化していくから、集団的自衛権で守らなければ日本が駄目になるというときは決断しなければいけない。だけど、今の環境でいえば、世界一強いアメリカと安保条約を結んで軍事同盟を維持しているわけですから、それ以上に、日本を守れないという事態は当面、想定できません。国会審議で、安倍首相は「たら、れば」の論理を使って安保法案を議論していましたが、衆議院と参議院の連続した質疑の中で、主張が崩れてしまったのを見てもわかるように、私はどうしても集団的自衛権でやらなければならないものは今はないと思います。日本を取り巻く安全保障関係は結局、米中関係に収れんされるでしょう。
【塩田】集団的自衛権と安全保障については、民主党内にいろいろの考え方があります。
【北澤】その点について、私が党の安保総合調査会長になって2年間かけて方針をまとめました。党内には、一方に集団的自衛権の行使を容認しろと言う人たちがいる。労働組合系ではなくて、連合にあまり助けてもらわないで自力で当選してきている。もう一方に、組合系で出てきた人たちがいて、集団的自衛権の行使なんてとんでもない話だと言う。
幅があります。私も自民党に長くいたからわかるけど、自民党もものすごく幅がある。だけど、最後はまとめる。かつての自民党では、反対している人は必ず最後の総務会にきて一番前の席に座り、始まった途端に手を挙げて自分の意見を言う。総務会は全員一致でなければ通らないから、反対の人は邪魔をしないで退席する。あれが自民党の知恵ですね。今の自民党には議論がないですね。
だけど、民主党ではなかなか難しい。以前はまとまらなかったけど、民主党に期待されている国民の意思はどこにあるかということで議論させると、まとまるんです。私は「役員一任は受け付けない」と言って徹底して議論させ、まとめた。
今度の安保法案についても、不満がある人はいましたが、去年、党の基本的な考え方を決め、今年の4月28日に方針をまとめた。民主党の安全保障に対する基本的な考え方は、「近くは確実に、遠くは抑制的に」「国際貢献は積極的に」です。それに基づいて、安倍政権が進める集団的自衛権の行使容認は認めないと決めたんです。
【塩田】自民党政権が復活する前、民主党は3年3カ月、政権を担いましたが、なぜ急速に国民の支持を失い、短命政権に終わったのか。振り返ってその点をどう思いますか。
【北澤】政治は政治家が全部やるんだという勘違いが大きかった。各省庁で、政治家がみんな決めるといって、政務3役だけで会議をして全部、失敗したんです。情報や知識を持っている役人は、いわば国民の財産ですから、上手に使うのが優れた政治家です。それができた省庁とできない省庁があった。もう一つの原因は、小沢一郎さん(元民主党代表)ですね。内閣は鳩山由紀夫さん、菅直人さん(ともに元首相)に任せるけど、党は自分が仕切ると言った。その後に消費税で対決して離党した。あれで民主党政権は終わった。