小善は大悪に、大善は非情に似る
京セラに多額の剰余金があっても、「これは預かりものや。もちろん、その中から京セラの将来のために投資することは必要。それを怠ってはいかん。しかし、それがすべてではない。天からの預かりものだから、できるだけ多く、世の中を良くするために使うことが大事や」と常に強調されています。
1984年に稲盛財団(現在は公益財団法人)を設立されたときも、ご自分で所有されていた京セラの株式や現金など合計で約200億円の私財を拠出されています。その稲盛財団が創設した国際的な賞である京都賞では毎年、先端技術、基礎科学、思想・芸術の各分野で人類に貢献した人々を表彰し、多額の賞金を贈っているのは周知の通りです。
私にはそんなことはとてもできませんが、わが社では現在、ミャンマーで井戸掘削の支援活動を続けています。稲盛さんの教えを少しでも自分の生き方に取り入れたいという思いから始めたものです。
世のために巨額の資金をなげうつ一方で、稲盛さんは金銭・消費感覚、ひいてはその生き方においても、いつ誰が見てもブレずに正しい判断を続けておられますし、「小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり」とよく口にされます。小さなことで満足して甘い言葉をかけていたら害になる、その人のために、非情なぐらいに厳しく接することこそが本当の善である、とわれわれ塾生にご指導いただきます。少しばかり業績アップを果たしたからといって、簡単に「よくやった」と褒めたりはしてくれません。むしろ、「まだだ、もっとやらんかい。そんなことで満足しててどないすんねん」と叱られます。
私自身、褒めてもらおうと思ったら、逆に「もっと大きな器にならんかい」と厳しく言われ、「こんなことで天狗になっていたらあかんわ」と思い直した経験があります。私自身が社員を褒めたり叱ったりする際に、この言葉を貴重な指針ともしてきました。
大きく稼ぎ、大きく使うことが人間の器を大きくするという稲盛さんの教えに、少しでも近づくことができればと思っています。
1941年、京都府生まれ。59年、京都府立山城高校卒業。同年、ヤナセ衣裳店入社。61年、ワタベ衣裳店入店。78年、同社社長。96年、ワタベウェディングに社名変更。海外挙式ブームの嚆矢となる。2008年会長、10年より現職。