負けず嫌いで、子どものころから勉強でも何でも、だいたいは学校で一番だった。しかも、何かで一番になると、「もっと大きな一番」を目指す。もし勝てなかったときは、「どうすればよかったのか」と振り返る。それを積み重ねて、上に残した目標があれば「戦闘モード」の気持ちが続く。

会社をつくってからも同じ。起業したネットオークションは、パソコン向けでは後塵を拝したが、携帯電話向けでは首位を走る。その後のスマホ向けゲーム「モバゲー」は、断然たる一番になる。勝ちたい、一番を続けたい、そんなDNAが、自分の中にある。

ところが、全く別のDNAもあった。夫は抗がん剤でよくなった後、再発し、主治医に決定的なことを言われた。でも、本人の強い意志と友人たちの助力で、奇跡的に癌が縮小し、診断画像から消えた。その間、花が咲き、散ることにも心が動く自分を、発見する。自分のなかで、何かが変わった。

2年近くがたって常勤の取締役に戻ったとき、もう「一番になりたい」との思いは、そんなに強くなかった。誰かに勝つことではなく、世の中を変えていきたいとの目標を達成することが、自分にとっての「勝つ」になっていた。

夫の発病で抱いた後悔を、世の中の人にしてほしくない。病気になる前に、ならないようにできることをする。そんな社会をつくりたい。そう考えて、2014年4月にDeNAライフサイエンスを設立し、東大医科学研究所の協力を得て、遺伝子検査サービス「MYCODE」に力を入れる。

数滴の唾液で遺伝子を分析し、各種の癌や生活習慣病が発症する可能性や体質など280項目を、日本人の平均値と比べる。統計的な手法で得る情報で、診断ではない。対象は20歳以上の成人で、ネットで申し込めば、数日後に容器が送られてくる。一部のスポーツ施設でも扱っている。唾液を入れて送ると、2、3週間後に、自分専用ページに検査結果が載る。

どんな病気にはどんなことをするのがいいか、アドバイスの一覧もあり、予防のための献立やレシピもある。検査項目数によって3段階の料金があり、全項目なら2万9800円。年齢が上がっても遺伝子データは変わらないから、検査は一度やれば済む。