小倉流から学んだ「全員経営」の手法

2009年春、国際貨物などを扱うヤマトロジスティクスの社長になって2年目、全国の営業拠点で「エリア戦略ミーティング」を始めた。拠点の責任者から若手まで約30人、意見や提案、不満を、次々に言わせる。尻込みする若手にも、無理やり「こういうサービスをやったらどうか」などと提案させた。手前みその話も出たが、終わるまで、じっと聞く。

話が終わるたびに、「面白いけど、ここはどうなの?」「もう少し工夫できないか?」などと、お客の目でみた問いを投げかける。どうすればいいか、答えがわかっていても、黙っている。若手たちに、自分で考える習慣を身につけさせるのが、狙いだからだ。

ヤマトホールディングス社長 山内雅喜

47歳で始め、3カ月に1度のペースで赴き、在任中に2巡した。それまで現場からの提案は、仮に若手の案でもそぎ落とされ、鋭い角度が消えていた。だから、直接対話に変えた。若い社員に自由に発言させ、みんなで練り上げていく「全員経営」の手法は、父が創業したトラック運送の大和運輸の社長を引き継いで「宅急便のヤマト」に大躍進させた小倉昌男氏から、吸収した。

入社2年目、引っ越し業務の担当からクール宅急便の開発チームに移り、サービス開始までの3年余り、毎週金曜日に小倉社長との会議に出た。チームは、部長と課長、係長に自分の4人だけ。小口貨物の市場規模や将来性の分析、冷凍、氷温、冷蔵の3段階での輸送を可能とするトラックや蓄冷剤のメーカーとの共同開発など、何もかもが若い自分に降ってきた。そのそれぞれについて、報告や企画書などを金曜日の会議に出す。

でも、社長は、その答えに満足かどうかは言わない。「こっちからみるとどうなの?」「主婦からみて喜ばれるサービスになる?」と、次々に問いが続く。毎週、突き詰め、とことん考えさせる。部屋は小さく、すぐ目の前に社長がいた。そんな3年間が過ぎ、若手と直接話し、いろいろ尋ねて答えを考えさせる手法が、いつのまにか、自分にも染み込んでいく。