デリヴァティブ進出を希望した裁定取引のリーダーは、78年のイラン革命で亡命したイラン人。米投資銀行からスカウトすると、世界のごく限られた人間だけのネットワークを持ち、各国のインナー情報を交換。ピーク時には18もの通貨を手がけ、日本に関する情報は、日本人よりも速かった。
一方、債券取引チームのリーダーはユダヤ人。2人とも、言わば「帰るところがない人々」で、いくら稼ぎを貯めても、「将来のことも考えよう」などとは思わず、市場への挑戦を続けた。それは、いまでも変わらない。市場取引では、そういう人間こそが、強い。祖国との結びつきが濃い日本人には及ばない世界をのぞき、リスク管理についても、多くを学ぶ。
多様な連携築く新プラットホーム
ちょうど、市場データを統計的手法で分析し、資産をある期間保有したときの最大リスクをはじく「Value at Risk」が話題となった時期。すぐに世界最高とされるロンドン・ビジネス・スクールの教授に頼み、勉強会を開き、いち早く導入する。やがて、イングランド銀行が研修生を送ってくるまでになり、当局のリスク管理の5段階評価で最高水準を得た。当時、シチーにあまたある金融機関で、最高評価を持っていたのは5つ程度、と聞いた。
東海東京証券へ転じ、2005年に社長になってからも、リスク管理に関する蓄積は大きな武器となる。もう一つ、意識はしていなかったが、人の力を借りるときには決して「高く」は出ず、相手が受け入れやすいように努める石田流も、40代を終えたこのロンドン時代に定着したようだ。「處世讓一歩爲高」(世に處(しょ)するには、一歩を讓るを高しと爲なす)――世の中に対応していく際は、人に一歩譲り、身を下に置くことが自分を高める、との意味だ。中国・明の洪自誠の書『菜根譚』にある言葉で、石田流は、この教えと重なる。