2015年に最も患者数が多いのは大腸がん
俳優の今井雅之さん(54)が末期の大腸がんであることを告白し、5月に予定されていた舞台を降板した。女優の坂口良子さん(享年57)、俳優の原田芳雄さん(享年71)はこの病気で亡くなっている。一方で、ジャーナリストの鳥越俊太郎さん(75)のように、直腸がんが肺、肝臓に転移しながらも、すべて手術で取り除くことでがんを克服した人もおり、今井さんも仕事への復帰へ強い意欲を見せている。
今井さんのように大腸がんになる患者は増えており、国立がん研究センターが公表した2015年のがん統計予測では、これまでトップだった胃がんを抜いて、男女合わせて患者数が最も多いがんになるようだ。今年大腸がんと診断される人は13万5800人程度いると予測されている。大腸がんは女性より男性に多いものの、2013年に女性のがんで最も死亡数が多かったのも大腸がんだった。女性は乳がんや子宮がんが多いというイメージがあるかもしれないが、実は、最も女性の命を奪っているがんは大腸がんなのだ。ちなみに、男性の場合、今のところ肺がんと胃がんのほうが死亡数は多く、第3位が大腸がんだ。
なぜ、大腸がんが増えているのか。増えている原因として専門家の多くが指摘するのが食生活やライフスタイルの欧米化だ。大腸がんは、がんが発生した部位によって結腸がんと直腸がんに分けられるが、かつて日本人の結腸がんは欧米に比べて少なかった。ハワイに移民した日系人の結腸がん罹患率を調べると、ハワイ在住の白人と同程度であり、結腸がんの発生には食生活などが大きく関わっているという根拠になっていたのだ。ところが、日本人の食生活やライフスタイルが欧米化したことによって、すでに日本人の結腸がん罹患率は、ハワイの日系人、アメリカの白人やイギリス人と同程度になってしまった。
国内外の研究で、大腸がんの確実な危険因子とされているのは、次の6つの項目だ。
□ 肥満
□ 喫煙習慣
□ 大量飲酒の習慣
□ 牛・豚・羊などの赤肉、ベーコン・ハム・ソーセージなど加工品の過剰摂取
□ 運動不足
□ 祖父母、親や兄弟姉妹など直系の家族に大腸がんの人がいる
大腸がんの増加は、肥満、大量飲酒の習慣、赤肉や加工品の過剰摂取、運動不足の人が増えたことと関係がありそうだ。特に、国際的に、大腸がんのリスクを確実に下げると評価されているのが「運動」である。世界がん研究基金と米国がん研究財団がまとめた『食物・栄養・身体活動とがん予防』(2011年版)では、ニンニク、牛乳、カルシウムの摂取も予防効果がある「可能性大」とされているが、運動は、食物繊維が豊富な食物とともに、「確実な予防法」にリストアップされている。
大腸のがんの発生と運動が関係あるとは意外な気がするものの、日本人を対象にした国立がん研究センターの研究班による多目的コホート研究でも、特に男性で身体活動量の多い人は結腸がんになるリスクが少ないことが証明されている。日常的にほとんど運動しない身体活動量最少グループが結腸がんになるリスクを1とすると、日常的によく運動あるいは肉体労働をしているグループの男性はリスクが0.58倍、女性では0.82倍だった。男性の場合、運動によって結腸がん発生リスクを42%も低下させるということだ。