MERSは予防ワクチンや治療法がない

お隣の韓国で中東呼吸器症候群(MERS)の感染が広がっている。6月10日現在、108人の感染が確認され、そのうち9人が死亡した。隔離対策の不備が次々と明らかになり、8日、韓国保健福祉部の文亨杓(ムン・ヒョンピョ)長官が国会で謝罪する事態に陥っている。

MERSは、2012年に初めて、ヨルダン、クウェート、オマーンなどの中東地域に在住・渡航した人に感染が確認されたMERSコロナウイルスが原因の感染症だ。2002年~03年に、中国から世界32カ国に広がりWHO(世界保健機関)が終息宣言を出すまでに774人もの死者が出たSARS(重症急性呼吸器症候群)の病原体もコロナウイルスだが、MERSとは別の病気。コロナウイルスは一般的な風邪のウイルスで、5歳くらいまでには誰もが感染している。

韓国でMERS感染拡大。死者・感染者は増え続ける(AP/AFLO=写真)

MERSが怖いのは、エボラ出血熱と同じように、今のところ予防ワクチンや治療法がなく、致死率が高いことだ。WHOによると、世界的には6月8日までに25カ国で生後9カ月から99歳までの1204人が感染し448人の死亡が報告されている。その致死率はなんと、約40%だ。

主な症状は、発熱、咳、息切れで、嘔吐、下痢などの消化器症状や胸痛を伴うこともある。重症化すると、血液中の酸素量が異常に低下する急性呼吸促迫症候群(ARDS)、腎不全になるという。潜伏期間は2日から15日で、感染から5日前後で発症する人が多い。症状が出ない人や軽い症状で済む人もいるものの、国立感染症研究所によると、63.4%の人が重症化し、44.1%が肺炎を発症、12.4%がARDSになっている。初期の症状はインフルエンザや風邪と症状が似ているため、MERSと分かったときには、家族や医療従事者などと接触してしまっていることが多く、それが感染拡大の理由の一つかもしれない。