感染力は強くないというが……
MERSがどのように人に感染するかはいまのところ分かっていない。中東のヒトコブラクダから同じMERSコロナウイルスが見つかっていることから、ラクダが感染源の一つではないかとみられている。また、コウモリからも同じウイルスが発見されており、もともとのウイルスはコウモリと関係があるのではないかとの説が有力だ。5月25日にMERSで死亡したサウジアラビアの68歳の女性はラクダを飼っていた。
患者には、韓国の患者のように、ラクダと接触していない患者も含まれており、患者から家族や医療従事者、MERS患者と同じ部屋に入院していた患者といったように、ヒトからヒトへの感染も確認されている。ただ、現時点では、韓国でも国内で感染した患者からうつった3次感染も含め、感染はすべてサムスンソウル病院(ソウル市内)などの病院内で起こっている。インフルエンザのように、次から次へと不特定多数の人に広がってしまうほど感染力は強くはなさそうだ。
もしもMERSになったときには、肺炎なら抗生物質で炎症を抑える、発熱は解熱鎮痛剤といったように、出ている症状を抑える対症療法しかない。急性呼吸促迫症候群(ARDS)なら人工呼吸器の装着、腎不全には透析が必要になる。糖尿病、慢性肺疾患、免疫不全などの病気を持っている人は感染症になりやすく、感染したら重症化しやすいので、厚生労働省は、そういった持病のある人がMERS流行地に行く際には、かかりつけの医師に相談し渡航の是非を相談するように呼びかけている。死亡している人のほとんどは、糖尿病や心臓病のような慢性疾患を持った人や高齢者だ。
昨年は276万人の韓国人が訪日、日本から228万人が韓国を訪問している。厚生労働省は、韓国の感染は限定的であることから、すぐに日本に流入するとは考えられないとの見解を示すが、中東と日本の間も毎日大勢の人が往来しており、いつ日本にMERSが上陸してもおかしくない。空港では、韓国や中東でMERSに感染した恐れのある人と接触したか確認するなど検疫を強化している。前述のように、潜伏期間は2日から15日なので、空港に着いたときには無症状でも、自宅へ帰って仕事に復帰してから発症する恐れもある。MERSかどうかは遺伝子検査を行い、陽性だと判明したら、全国47カ所の感染症指定医療機関に入院し隔離される。
MERSを予防するには、一般的な感染症対策である手洗い、うがい、人込みを避ける、咳をしている人に近づかないといったことの他に、ラクダやコウモリなどの動物にできるだけ近づかないといった注意が必要だ。厚生労働省検疫所では、中東へ渡航する人へラクダの生乳や尿を飲むことや調理不十分な肉を食べることは避けるよう、注意を促している。ちなみに、日本国内には動物園などで25頭前後のヒトコブラクダが飼育されているが、そのうち20頭にMERSコロナウイルス検査が実施され、いずれも陰性だった。
いまのところ、日本では過剰な予防策を練る必要はなさそうだが、新たな感染症が来たときに自分の身を守るためには、日ごろから睡眠不足になったり疲れをためたりしないようにするなど、免疫力を上げておくことも大切だ。