9月30日、ショッキングなニュースが全米を震撼させた。テキサス州ダラスで1人の男性がエボラ出血熱を発症したのだ。治療の甲斐なく、この男性は8日後に死亡。さらに、治療に携わった看護師2人が二次感染。しかも信頼と実績のある地域の中核病院での出来事だ。ブッシュ前大統領も同病院で心臓手術を受けている。

ダラスでのエボラウイルスの二次感染は様々な問題点を浮き彫りにした。

まず、空港検疫でのエボラウイルス感染者のすり抜けだ。死亡した男性はリベリアでエボラウイルスに感染したが、米国入国時に症状はなかった。このようにウイルスに感染しても、すぐに症状は出現しない。この期間を潜伏期と言い、エボラウイルスの場合、最大21日である。現在、全米の主要な空港では西アフリカからの渡航者に対し体温測定が行われているが、効果は限定的だ。2009年新型インフルエンザの際、「水際作戦」を強調するあまり、日本国内での感染の発見が遅れたことを彷彿とさせる。

次に、エボラウイルス感染者に近づいたことのある人を把握し、隔離あるいは体調管理させることの難しさだ。今回、二次感染のリスクのある病院スタッフでさえも飛行機やクルーズ船で旅行していたことが判明。保健当局はエボラ出血熱患者の治療に関わった病院スタッフに旅行の自粛を呼びかけた。

エボラウイルス感染者に対する救急医療体制も課題だ。二次感染した看護師は2人とも結局、ダラスを離れ、「バイオセーフティレベル4」と呼ばれる特殊施設のある他の州の病院に搬送された。地域の中核総合病院でさえも十分に対応できないことが露呈した。

国際的な人の往来が激しい現代、どの国もエボラウイルスの国内感染に備える必要がある。インフルエンザが流行すると、エボラ出血熱とのふるい分けに混乱が生じると予想される。発熱という点でエボラ出血熱とインフルエンザの初期症状は似ているからだ。ダラスでの感染拡大は先進国でさえも感染制御することの難しさを物語っている。日本は準備できているだろうか?

(取材協力=東京大学医科学研究所 上 昌広)
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