デングウイルスは日本に広がっているのか?

蚊が媒介する感染症といえばマラリアやデング熱が有名だが、日本では、「蚊に刺されたくらいで慌てなくても大丈夫」というのが常識だった。しかし、直前に海外渡航歴のない10代~20代の男女6人(8月末現在)がデング熱に感染していることが判明し、事態が変わりつつある。6人はいずれも都立代々木公園(東京都渋谷区)でデングウイルスを保有する蚊に刺されたとみられている。

日本では、戦時中の1942年~45年に神戸、大阪、広島、呉、佐世保、長崎などで約20万人が感染する大流行があって以来、69年ぶりの国内感染例という。実は昨年8月、日本へ渡航したドイツ人が帰国後にデング熱を発症しており、今年7月に別件で国立感染症研究所の研究員に取材した際、「今年はデング熱の国内感染もあり得る」と話していた。

デング熱は、ヒトスジシマ蚊(ヤブ蚊と呼ばれこともある)、ネッタイシマ蚊によって媒介されるウイルス感染症だ。ネッタイシマ蚊は今のところ日本では生息が確認されていないが、ヒトスジシマ蚊は北海道と青森以外の全国各地に分布している。この夏も、ほとんどの人が1回以上はこのヒトスジシマ蚊に刺されているに違いない。感染者3人が一緒に行動していただけに、空気感染もあり得るのかと勘違いしがちだが、インフルエンザのように人から人へ感染することはなく、発症するのはデングウイルスを保有する蚊に刺されたときだけ。万が一、家族が感染したとしても、感染者を刺した蚊に刺されなければ大丈夫というわけだ。

日本では聞き慣れない病気であるものの、世界的にはマラリアに次いで多い昆虫媒介感染症で、東南アジア、南アジア、中南米、カリブ海諸島、アフリカ、オーストラリアなど全世界で毎年約1億人の感染者が出ている。これまであまり注目されていなかったが、日本でもインドネシア、フィリピン、マレーシア、タイなどで感染し帰国する例は年々増えており、国立感染症研究所によると、2013年には249人の日本人がデング熱に感染した。今回は3人とも海外渡航歴のない感染者だったため、日本でも、デングウイルスが広がっている恐れが出てきたわけだ。