ワクチンはなく、治療は対症療法が中心
症状は、3~7日の潜伏期間のあと、38度以上の突然の発熱、頭痛、目の奥の痛み、関節痛、吐き気・嘔吐で、インフルエンザなど多くのウイルス感染症と同じ。胸の辺りや手足に発疹が出たり、食欲不振、腹痛、便秘を伴ったりする人もいる。「デング」はスペイン語の「denguero」(英語でdandy)が語源とされ、背中の辺りの激痛にのけ反る姿がダンディな人が気取って歩く姿に似ていることからその名がつけられたという。まったく症状が出ない人もいる一方で、かなりの激痛に苦しむ人もいるようだ。
さらに怖いのは、平熱に戻りかけたときに、血小板が減少し胸水や腹水がたまったり鼻出血・消化管出血を起こしたりする「デング出血熱」を発症することだ。ちなみに、アフリカで感染が多数の死者を出しているエボラ出血熱とはまったく別モノなので、混同しないように注意していただきたい。
2010~13年の4年間に海外渡航後日本で感染が確認された825人のうちデング出血熱を発症したのは37人(4.5%)。重症例ではショック症状を起こし、適切な治療が行われないと死に至るケースもある。感染者が爆発的に多いフィリピンでは昨年、感染者16万6107人のうち528人が亡くなっている。
デング熱には特効薬やワクチンはなく、治療は対症療法が中心だ。ただ、アスピリンの入った解熱鎮痛剤や風邪薬は出血のリスクを高めるので、デング熱かどうか分からない段階で市販薬を使う場合にはアセトアミノフェンを主成分とした解熱鎮痛剤を使ったほうがいいという。
多くの感染者は1週間前後で回復するが、現時点では、とにかく蚊に刺されないようにするのが一番だ。感染の危険性が高いのは、人と蚊の多い都会の公園や草地である。ヒトスジシマ蚊は場所によっては11月まで生息し続ける。屋外では長袖長ズボンで靴下を履いて肌の露出を避け、虫除けスプレーで防御しよう。ランニングやウォーキングのときにはタオルなどを巻いて首の露出も防ぐとよいだろう。バルコニーや庭に、蚊が卵を産みつける水の入ったバケツ、空き缶、空き瓶などを放置しないように注意し蚊を増やさないことも大切だ。
いまのところ、国内感染例に関しても、海外でデングウイルスに感染した人を刺した蚊に刺されたことでデング熱を発症したのではないかとみられているが、さらに感染が拡大する恐れはゼロではない。蚊に刺されて高熱が出たときには、早めに医療機関を受診しよう。「たかが蚊」と笑っていられない時代は近いのかもしれないのだ。