「ウエストナイル熱」はアメリカで感染拡大

直前に海外渡航歴のない人のデング熱への感染が広がりつつある。デング熱はウイルスを保有する蚊に刺されたことで発症する感染症だが、蚊を媒介にした怖い感染症はほかにもある。

国内感染はないものの日本への侵入が最も警戒されているのは、夏から秋にかけて、アフリカ、ヨーロッパ、中東、アメリカ、カナダと広い地域で流行がみられる「ウエストナイル熱」だ。デング熱と同じように人から人への感染はなく、蚊を介して人や馬、鳥に感染する。1937年にウガンダのウエストナイル地方で初めてウイルスの存在が確認された病気で、アメリカでは1999年にニューヨーク市でカラスの大量死がみられた後、感染が拡大した。

80%の人はウイルスに感染しても症状が出ない不顕性感染で、一般的には、症状が出たとしても発熱や頭痛、筋肉痛、食欲不振などインフルエンザと同じような症状が3~6日続いた後、回復する。怖いのは、頻度は少ないものの、髄膜炎や脳炎を起こし死に至る危険性があることだ。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、アメリカでは2013年に2469人が感染し、うち119人が死亡している。重症化するのは50歳以上の中高年が多いという。

わが国では、2005年にアメリカから帰国した30代の男性がウエストナイル熱を発症したが、その後は感染者が確認されていない。それでもウエストナイル熱が注目されるのは、この病気を媒介する蚊(アカイエ蚊、チカイエ蚊、ヒトスジシマ蚊など)が日本にも生息しており、一度、ウイルスが国内に侵入すれば、今回のデング熱のように感染者が広がる恐れがあるからだ。少なくとも、カラスなど野生の鳥が死んでいたら、触ったりしないように注意しよう。

そして、デング熱と同じように、ウイルスを保有するヒトスジシマ蚊とネッタイシマ蚊に刺されて発症するのが「チクングニア熱」だ。ネッタイシマ蚊は今のところ日本には生息していないものの、ヒトスジシマ蚊は北海道と青森県以外の全国各地に存在する。聞き慣れない病気だが、アフリカ、南アジア、東南アジアで感染がみられ、日本でもそういった地域からの帰国者の発症が毎年10人前後報告されている。

症状はデング熱とよく似ており、38度以上の高熱と強い関節痛を生じ、8割程度の人に発疹がみられる。関節が炎症を起こして腫れたり、鼻や歯肉から出血したりするケースもあり、関節痛が数週間から数カ月続く場合もあるそうだ。死亡はまれだが、重症例では脳症や劇症肝炎を併発することもある。