狩猟採取社会の人々が、現代人より健康であったかといえば十中八、九、その逆であったろう。しかし、当時の人々の健康状態はかつて想像されたほど劣悪な状態ではなかったことも明らかになってきている。天然痘や麻疹、風疹、水痘、インフルエンザといった感染症は存在せず、癌や循環器系疾患を引き起こす環境要因も現代に比べてはるかに少数であったに違いない。

転換点は農耕の開始であった。農耕の発明は単位面積あたりの収穫量増大を通して土地の人口支持力を高め、余剰作物は家畜飼育を可能にした。家畜飼育の開始は、動物からヒトへ微生物の伝播を引き起こした。

例えば、天然痘はウシの感染症で、麻疹ウイルスはイヌのジステンパーが変異したものだ。インフルエンザはブタと関係が深い。こうした感染症は家畜との濃厚な接触を通して初めて人間に流行することとなる。一方、人口規模の拡大は流行の土壌となった。感染症の流行には、ある規模の人口集団が必要なのだ。