伊藤詩織氏監督のドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』が公開され、性犯罪事件発生時の警察がどのように捜査を進めているかが映し出されている。ジャーナリストの柴田優呼さんは「映画で警察が物的証拠を求める場面があるが、実際にはDNAなどがなくても刑事事件で立件できる。元大阪高検の田中嘉寿子弁護士に聞いた」という――。
会見での伊藤詩織さん=2025年12月15日、東京都千代田区の日本外国特派員協会
筆者撮影
会見での伊藤詩織さん=2025年12月15日、東京都千代田区の日本外国特派員協会

伊藤詩織氏の映画が日本で公開

アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞に日本人の作品として初めてノミネートされ、世界各国で上映されてきた伊藤詩織氏監督のドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』(ブラック・ボックス・ダイアリーズ)が12月12日、ようやく日本国内で公開された。この映画を巡っては、伊藤氏が元TBS記者の山口敬之氏に性暴行を受けたと訴えた裁判で、代理人弁護士を務めた西廣陽子氏が今年2月に記者会見を開き、許諾のない映像や音声が使われていることなどを批判したため、国内での上映が危ぶまれていた。

今回公開された日本版には、それを受けて多くの修正がほどこされていたが、伊藤氏への批判はなくならず、12月15日に開かれた伊藤氏の記者会見後、映画を巡る議論がさらに加熱し、SNS上では伊藤氏や西廣氏らへの個人攻撃も起きている。

『Black Box Diaries』をジャーナリズムの観点からどう見るか、またドキュメンタリー映画作品としてどう評価するか、ということについては、以前、記事で取り上げた。

【参考記事】アカデミー賞受賞なるか…伊藤詩織氏の映画「Black Box Diaries」協力者を無断でさらす隠し録画・録音の是非

しかし、この映画は、その他にも多様な要素をあわせ持っている。中でも、性犯罪の刑事手続きのあり方について、色々と考えさせられる内容を含んでいる。映画は元々、刑事裁判では不起訴になったが、民事裁判では不同意性交が認められ、伊藤氏が勝訴する過程を描いている。

元大阪高検の田中弁護士に聞いた

筆者は伊藤氏の映画とは別個に、性暴力問題を取材する過程で、元大阪高検検事で弁護士の田中嘉寿子氏ら司法関係者に、これまで検察や警察が性犯罪を捜査する際に十分でなかった点について話を聞いている。伊藤氏の映画には、そうした問題点を改めて示す内容が出てくるため、これに言及しつつ、田中氏の話を紹介したい。

田中氏は今年検事を退官するまで、長年性犯罪を手掛けてきた性犯罪捜査の第一人者だ。捜査上の問題の解説や事例紹介についての著書や論文もあり、性犯罪捜査で重要なことは何か、検察内部で講演する立場にいた。

ただしお断わりしておきたいが、この記事で紹介するのは、田中氏が一般論として性犯罪捜査の問題点をどのように考えているのかという話であり、伊藤氏の刑事裁判についての見解ではないということだ。