「お客様を愛した結果が数字なんです」
愛する人の役に立ちたい、そう考えて行動したら自然と数字がついてきた。
山中雅恵(45)は1987年に男女雇用機会均等法の第一世代として日本IBMに営業職で入社。当時の営業は酒と情の接待が中心の男社会で、山中はお手上げ。営業先の担当者と仲良くなりたい一心で「交換日記しましょ」と持ちかけて驚かせたことも。
やがて女性の細やかさを生かし、先手先手で顧客の気持ちをつかもうと考え、「お客様が明日考えることを、私は今日提案しよう」と誓う。年間プランを立て、月初に月間計画に落とし込む。それを別紙に書き出し、客先のキーマンに「今月はこれをやります」と宣言して、自分の逃げ道を塞ぐ。月曜早朝に月間計画から週間計画を練り、さらに日々の行動項目に落とし込む。1日に10項目ほどあり、3、4個は長期戦略に結びつくものだ。長期戦略から日々の行動まで立体的に連動させた行動管理術は、社内で「山中さんのノート」と呼ばれ、教材にもなった。
顧客について勉強し、知れば知るほど興味がわき「ドキドキワクワクして何か役に立ちたい」と思えるようになった。「家でも電車でも、お客様にああしたい、こうしたいと考えています。夫のことはそこまで考えませんが」と笑う。
あるイベントで、たまたま営業先の社長が会場から出るところを発見し、千載一遇の好機とばかりに猛ダッシュ。車に乗り込もうとしている社長を無理矢理引き留め、「私に社長の時間を」とすがりついたこともある。これがきっかけで年数十億円の契約を獲得し、さらに桁を増やす規模に発展させた。
「自分が一番愛しているんだから競合に絶対勝たねばならない。そうでないと、お客様を不幸にしてしまう」。まさに愛のなせる業だが、実は山中は3、4年で担当先を変えてもらっていた。