「運転中にすれ違った車のナンバープレートを見ただけで、お客様が誰なのかわかります」と古谷由香子さん(28)。“特技”と言ってしまえばそれまでだが、卓越した記憶力を持つ。アウディ車の営業を始めて8年目。自分が持つ顧客は約200人だが、アウディ青森店の顧客は約600人にのぼる。

<strong>アウディ青森 営業 フロアマネージャー 古谷由香子</strong>●1981年、青森県生まれ。米沢女子短期大学を卒業後、アウディ青森を経営するツカハラエンタープライズに入社。
アウディ青森 営業 フロアマネージャー 古谷由香子●1981年、青森県生まれ。米沢女子短期大学を卒業後、アウディ青森を経営するツカハラエンタープライズに入社。

赤信号で止まっているときはもちろん、一般道を走行しながらすれ違ったときにも、ナンバープレートから600人の顧客と、場合によっては奥さんの顔まで瞬時に浮かぶ。

「県庁前を運転されてましたね」

後日そう声をかけられて、最初は驚く人もいた。だが誰も不快感を訴えなかった。いまは、「さすがは古谷さん」と大半は、共感を抱いてくれている。

青森市の人口は約31万人。地域の中に人間関係が息づいている。東京のように商品や納期、価格などで、合理的に契約の多くが決まる地域ではない。ポイントになるのは、どうすれば相手の懐に飛び込んで買ってもらい、最終的には長期間の関係を築いていけるかどうかにある。長期間の良好な関係は、リピートにつながっていく。

欧州の高級車であるアウディは、医師や弁護士、経営者、資産家など、青森市でも富裕層がメーンユーザーだ。

「去年の販売台数は24台でしたが、今年は9月末までで26台です」

女性営業員がほかにはいない東北地方全体で5位の成績だ。平均単価500万円近くの高級車を月3台弱売る。しかも不況が深刻化しているのに、逆に売り上げを伸ばしている。(雑誌掲載当時)

駆け出しの頃は、失敗も経験した。夜8時過ぎ、見込み客を夜に訪問したが、「いま、子どもをお風呂に入れてます」と夫人の声が返ってきた。謝罪はしたものの、その客はBMWを選んだ。

「売りたいという私の気持ちが、強すぎたんです。自分本位では、お客様の共感は得られない」