「国立病院の営業は、いわば我慢比べ。すぐに成果は出ない」。綿貫里香さん(30)は、現在の病院の担当になったとき、上司にそう言われたという。
入社して7年目。5年間、開業医を担当した後、2007年9月に東京・文京区にある国立大学病院の中枢神経領域のMRに抜擢された。開業医であれば、医師本人の決断でどの薬を使用するかが決まりやすいため、数字に結びつきやすいという。しかし、国立病院はそうはいかない。
だが、綿貫さんは、国立大学病院を担当して1年強で、中枢神経領域のMR約500人の中でトップに立った。さらに、1975年度に創設された、特に優秀な成績を収めたMRに贈られる「アルピニスト・クラブ・メンバー」という特別褒賞を06年度に続き、08年度も受賞。全国約2400人のMRの中、たった88人という精鋭の1人に選ばれるという快挙を成し遂げた。
綿貫さんが担当病院で関係する医師は、教授陣から研修医まで100人弱と幅広い。毎日、訪問規制が解除される午後3時に、研究棟の廊下へ出向く。若手医師たちはアポすら取れないほど忙しいため、とにかく病院へ張りつくことが日課だ。1日に言葉を交わすのは10~15人。目当ての医師が通りかかるまでひたすら待ち、時間をもらえたら2~3分でポイントだけを話す。限られた時間で「いかに先生に認知してもらうか」が勝負だという。
「公務員である国立病院の先生方は、常にリベラルで中立的な意識を持っていらっしゃいます。MRと話されるときも、自分の会社だけが強くなればいい、という姿勢をとても嫌がられる傾向があるんです」と綿貫さんは語る。
他社製品についても細かく勉強しておき、「弊社の薬だけではなく、こういう場合は他社さんでもいいんです」とあくまで中立の立場で話すことを心がける。綿貫さんは、待機している間も、人を細かく観察する。いくら話したい医師であっても忙しそうであればあえて声をかけない。