ブラック企業に使い捨てにされてしまうような「運の悪い人」には、どんな共通点があるのか。脳科学者の中野信子さんは「そういう人は新奇探索性が弱い可能性がある。一度正しいと信じた社会のルールや常識を守りつづけるため、ブラック企業にとっては使い勝手のいい人材にされてしまう」という――。

※本稿は、中野信子『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

iPhone 5
写真=iStock.com/S_Z
※写真はイメージです

こういうタイプはブラック企業に利用される

まじめで、人を疑うことを知らなくて、人の話を素直に聞けて、責任感が強い人。

もしこんな人が近くにいたら、一見、素敵に思えるかもしれません。しかし実は、このような人は、運の悪い人の要素を兼ね備えている、ともいえるのです。

世の中には、給与や勤務時間などの労働条件が労働法に違反している「ブラック企業」と呼ばれる会社があります。

あるブラック企業の社長が社員を採用するときの記事を読んだことがありました。それによると、この社長が採用するのは、いつも「使い勝手のいい人材」。彼が考える使い勝手のいい人材の特徴の一部が、「まじめ、人を疑うことを知らない、人の話を素直に聞ける、責任感が強い」だったのです。

普通なら、こんな人は理想的ないい人のように思えるでしょう。

でも私は、この記事を読んだとき、たしかにこういうタイプの人はブラック企業に利用され尽くしてしまうだろうな、と感じました。

ではなぜ、常識的に考えればよしとされる「まじめ、人を疑うことを知らない、人の話を素直に聞ける、責任感が強いこと」が運の悪い人の要素となってしまうのでしょうか。

社会のルールや常識を自分より上に置かない

まじめということは、ある意味、社会規範に自分を合わせることです。人を疑うことを知らない、人の話を素直に聞けるというのは、ある意味「自分」をもっていない、ということ。つまり、自分を大切にしていないのです。

社会のルールに自分を合わせがちな、「自分」をもたない人が責任感を発揮するとどうなるか。

自分が入社した企業はどこかおかしい、居心地が悪いと気づいても、なかなか辞められないのです。ほかの社員は一生懸命がんばっているのに、自分だけ辞めるのは申し訳ない、責任を全うできない、などと考えてしまう。責任感の使いどころを間違えてしまうのです。

常識ではよしとされていることも、使い方を間違えればマイナスの方向に働きます。

では、私たちは常識をどのように扱えばいいのでしょうか。

それには、社会のルールや常識をいつも絶対正しいと思わずに、相対的なものととらえる心がけが必要でしょう。もちろん、社会のルールや常識を守らなければならない場面は多々あります。しかし場合によっては、人の話を聞かずに状況に応じて行動したほうが、自分のためやまわりのためになることがあることを忘れないでほしいのです。

このとき大切なのは、社会のルールや常識を自分より上のものとみなさないこと。いちばん大切にするべきなのは自分なのだ、と考えることです。