2.なぜ余計な心配や悩みを抱え込んでしまうのか

ヴィトゲンシュタインは職業的な学者をとことん嫌っていた哲学者です。たいていの学者は大学で給料をもらっているサラリーマンなのに、「哲学者」という肩書にあぐらをかいて、立派そうなことをいっているからです。

そういったサラリーマンによく見られるのが「直線的に物事を考える癖」です。サラリーマンにかぎらず、現代人は時間を一直線に流れていくものだと考えます。でもヴィトゲンシュタインは、はたしてそうかと疑問を投げかけました。

「直線的に考える癖」
私たちはいつも直線的に物事を考える癖がある。
たとえば自分の将来について思いを巡らすとき、今の自分の状況から将来がどう直線的につながっていくかというふうにまっすぐな線を引いて考えることが多い。
また、世界がこれからどうなるかということを考えてみるときですら、今の世界の動きがさらに進展していくという前提で未来の予想を立ててしまうのだ。
今の世界の動きから突如にして変貌していくとか、そのつど世界が変化を続けていくといったふうに考えたりはしないものだ。
しかし、実際の世界はそういうふうに動いているのではないか。
ヴィトゲンシュタイン

時間が一直線に流れるという考え方は、今日が原因となって、その結果として明日があるというふうに、何事も単純な因果関係(原因と結果の関係)で捉える態度に結びつきます。だから、自分の将来も、今の延長上で考えるようになる。

ニーチェは頭痛やめまいの発作のなかで哲学的著作を続けた。(AFLO=写真)

しかし、実際の世界はそんなに単純には動いていません。たとえば、今の気分の延長で、明日の感情があるとは誰も考えない。感情というものは、恋人の一言ですぐに変わる。それなのに、なぜか人間は、自分の将来について考えると、現在を基準点にして、その延長上でキャリアプランのようなものを立ててしまう。

なぜ、それがまずいのでしょうか。こういう直線的な考え方に縛られてしまうと、くだらない法則的な思考にひっかかってしまうからです。たとえば、今期の営業成績が悪いと、その先もきっとうまくいかないと落ち込んでしまう。

でも、そもそも「今期の営業成績が将来の成績を決める」という結びつき自体、思い込みでしかありません。そんな法則が事実としてあるわけではありません。ところが、直線的な考え方が染み付いてしまうと、こういう思い込みを事実と勘違いするようになってしまうのです。

そういう人に勧めたいのは、自分の悩みや不安をすべて箇条書きで書き出すことです。そして、翌日それを見直してみましょう。そのとき、事実ではないもの、思い込みや感情でしかないものは横線を引いて消していきます。そうすると、たいていの場合、事実は1つか2つしか残りません。あとはすべて余計なことばかりなのです。

課題が1つや2つなら、自分がやらなければならないことがはっきりします。余計なことは考えず、まずはその問題に取り組みましょう。

※言葉の出典は、すべて白取春彦氏の超訳による。

白取春彦(しらとり・はるひこ)
作家
青森市生まれ。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。ベルリン自由大学入学。哲学・宗教などを学び、1985年帰国。近著『ニーチェ 勇気の言葉』など著書多数。
(斎藤哲也=構成 若杉憲司=撮影 AFLO、時事通信フォト、AP/AFLO=写真)
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