単に部屋の中で思索にふけるのではなく、外に出て自ら行動を起こすことで人間関係を深く洞察してきた哲人の言葉から真に豊かに生きる術を『超訳 ニーチェの言葉』の著者・白取春彦氏が解き明かす。

1.人生について考えるベストな方法はあるのか

ニーチェの言葉は、一貫した思想に基づいたものというより、時々の気分から発せられているものが多いのが特徴です。彼は、日常的に胃痛や偏頭痛に悩まされていて、床に伏している時間も長かった。身体的には相当しんどい人生を送った哲学者です。でもその分、覚醒しているときには強烈な言葉を生み出せました。

そんなニーチェの言葉に通底しているのは、しんどい自分を超えて、新しい自分になろう、今を変えようという前向きな姿勢です。ニーチェは誤解されやすい哲学者です。多くの人がニーチェに暗くて難解なことをいっているというイメージを持っていますけど、違うんですね。彼の言葉には「強い自分になろう」という思いがあふれています。

「人生について考えるのは暇なときだけにせよ」
人生のことを考えてもよいが、それは休暇のときにすることだ。
普段は仕事に専念しよう。自分がやらなければならないことに全力を尽くそう。解決すべき問題に取り組もう。それが現実をしっかり生きることだから。
ニーチェ

「人生について考えるのは暇なときだけにせよ」という言葉は、そのまま読むと、「人生のことを一生懸命考えても仕方がない」というふうに、人生を軽視しているように思えるかもしれません。でも、そうではない。人生のことを考えてもいいけれど、それは休暇のときにすることであって、普段は仕事に専念しよう、というのがニーチェのいおうとしていることです。

白取春彦 作家

なぜ、暇なとき以外に人生のことを考えてはいけないのでしょうか。

たとえば、仕事中に人生のことを考えてしまうのは、たいてい仕事でうまくいかないことがあったり、仕事がイヤになったりして、逃避したい気持ちがあるから。仕事のことを考えたくないから、人生のことを考えているフリをしているのです。そういう状態で頭の中で人生についての理屈をこねまわしても、ポジティブな気持ちは持てません。

だからニーチェは、仕事に専念することが大切だというのです。ニーチェには「仕事が自分を強くする」という言葉もあります。仕事に打ち込んでいる人は、自分に迷わないし、たじろがない。仕事によって心と人格が鍛錬され、ブレない自分がつくりあげられる。ニーチェの言葉を読むと、人間が強くなるためには仕事に熱中することが不可欠だということがわかります。

人間は何かに夢中で没頭しているときには、余計なことを考える暇がないので邪念が入りません。目の前にあるやらなければいけないこと、解決しなければならない問題に全力を尽くして取り組むことが、新しい自分をつくる糧になります。

自分を変えるというと、今の自分を否定することのように考えられがちですが、それは間違いです。自分にできることを無我夢中でやることが、自分を変えていくのです。