従業員に愛社精神を説かない理由

お二人ともこの家訓と同様、店や会社は社会の機関であり、客に奉仕することが「使命」だという意識が強くて、金銭や財というものは後からついてくる、と思っているところがありますね。繰り返すようですが、公私の区別、「奥」と「店」の区別をきちっとつけておられます。だから従業員についても、「使っている」「使ってやってる」のではなく、「社会から預かっている」という感覚。だから、従業員にはみっちり勉強させます。この子らが伸びてくれたらウチの会社もよくなり、お店もよくなる。そして社会に貢献できる。お二人が従業員に愛社精神やロイヤルティを説くところなど、一度も見たことがありません。

何より、人の上に立つ者にとって何が大切なのか、自分の言動が下にどんな影響を与えるのかを熟知している。だから、自己の律し方も厳しい。他人が変な動機で接触してきても揺れませんし、そういう人は排除します。経営者は、たとえば「ゴルフが好き」「趣味はこんなんや」といった“私事”を公言すると、そこに他人のつけ入る隙が生じるんです。崩れ始めるのはそのあたりからですよ。

事業が単なる金儲けの手段なら、大人数を雇ったり設備を整える必要はありません。お金の運用か、食べていくだけの商売を考えればいい。事業の根幹とすべきは社会や他人に対する責任の大きさ、つまり「志」です。

岡田さんも小嶋さんも、その「志」の高い真の経営者。中途半端に小銭を貯めるのではなく、一言では言えないような大きなものを得ているのでしょう。イオングループが大きくなったのも偶然ではないと思います。

イオン名誉会長相談役 岡田卓也(おかだ・たくや)
1925年、三重県生まれ。46年岡田屋呉服店代表取締役。48年早稲田大学商学部卒業。70年ジャスコ代表取締役社長。80年岡田文化財団理事長(現任)。89年大英勲章C.B.E受章。91年イオン環境財団理事長(現任)。95年日本小売業協会会長、日本ショッピングセンター協会会長。2001年イオンに社名変更、現職。

パラミタミュージアム名誉館長 小嶋千鶴子(こじま・ちづこ)
1916年、三重県生まれ。33年四日市高等女学校卒業。39年岡田屋呉服店代表取締役。69年ジャスコ取締役。主に人事を担当。77年同監査役。81年同相談役、88年同名誉顧問。70代でみずから陶芸を始め、夫・小嶋三郎一氏(97年死去)と集めた美術品をもとに2003年、パラミタミュージアム設立。
東和コンサルティング会長 
東海友和
(とうかい・ともかず)
1946年生まれ。64年岡田屋入社。ジャスコ本社人事課長などを経て2005年岡田文化財団事務局長兼美術館運営責任者。08年より現職。