1月9日付の日本経済新聞朝刊1面をトヨタ自動車の社長交代の記事が飾った。次期社長に就任する予定なのは、豊田章男副社長。創業家出身者をトップに据えることにより、グループの団結力を高めるという狙いは評価に値するだろう。一方、同社のビューロクラシー(官僚組織化)がさらに強くなる懸念もある。チャンスもあれば、リスクもあるという人事だ。
同社は2009年3月期の決算で1500億円の赤字見通しであることを発表した。なぜ、このような状況に陥るに至ったのか。理由は、3つあると考える。
1つは、同社の描いた戦略が裏目に出たことである。過去数年にわたり、同社は利益率の高い高級車や大型車の生産拡大を目指し、集中的に資本投入してきた。さらに、世界経済が拡大し、潤沢に資金の調達や融資ができるという状況の中、金融事業を増強していった。同社はこの2軸で驚異的な成長を遂げてきたが、一転、行き詰まりを見せている。
2つ目は、固定費を限界利益がカバーできなくなったことである。世界経済が落ち込む中、高級車や大型車への需要が減退し、世界中に売れない車の工場を大量に抱える結果となった。この状況は、00年ころのGMとあまり変わらないといえよう。
現在、期間工の人件費や広告宣伝費を含めた同社の広義の固定費は6.8兆円に達する。経営陣は10%の総固定費圧縮を目指すと発表しているが、「リストラ」というビジネスモデルを持たない同社にとって、これを実現するためには2、3年の時間を要するだろう。1年目には期間工を中心とした人件費や広告宣伝費の削減が進み、2年目以降は、人件費や減価償却費などの構造的な固定費削減がカギとなってくる。これには商品、技術、生産工場の戦略的な再構築が必要となろう。
3つ目は、小型車の収益性の低さである。大型車、高級車モデルにシフトした結果、小型車の商品力、コスト競争力が相対的に弱まった。世界経済が再び回復すれば、需要の牽引役は、経済性に優れた低燃費のスモールカーに転じる可能性が高いと考えられる。
3つの課題をクリアするための新たな戦略を立案できるか――豊田次期社長の手腕が問われることになる。