世界的金融恐慌の波は実体経済を呑み込もうとしているが、2008年秋口まで諸外国に比べ経営的な余裕を示していたのがわが国のメガバンクである。相次ぐ海外金融機関向け資本参加はその象徴であった。
しかし、9月のリーマン・ブラザーズ破綻以降、景色は一変する。特に打撃が大きかったのが保有株式である。日本の株式市場も急落し、07年に8兆円、08年9月でも3兆円あった大手銀行の株式含み益が、筆者の計算では10月の1カ月間で吹き飛び、かつての金融危機のように含み損へと転落した。
含み損は自己資本比率を圧迫し、銀行は急速に信用供与に慎重となった。海外に比べ安心とされた日本の金融市場においても流動性危機は他人事ではなくなった。これが株式市場を通じた資金繰りリスクの「輸入」である。
こうした中、メガバンクは競うように2兆円近くの資本増強を実施した。
企業倒産急増や株価下落に加え、円高による輸出産業への打撃、雇用環境の急速な悪化など銀行を取り巻く環境は悲観論が支配的となっている。これに伴い1998年や02年のような金融危機の再現を懸念する声も高まりつつある。
しかし、かつての金融危機とは多くの点で異なっていることも事実だ。
第1に、金融機関の破綻が金融不安に火をつけたのが98年だが、08年は金融機能強化法の成立により水際で破綻を防ぐセーフティネットが確立された。
第2に、98年時点では自己資本の2.5倍に達する大手銀行の株式保有が、現状では自己資本の半分程度に減少している点が挙げられる。
第3に、不良債権に対する引き当てが「竹中プログラム」等を経て充実し、引き当て等でカバーされていない不良債権が資本対比で60%程度を占めていた02年に比べ、現状では6%程度に大幅に減少している点が挙げられる。
したがって、金融危機再現の可能性は低いというのが筆者の見方だ。とはいえ、株価下落いかんで、優位性を見せつつあった海外戦略も抑制的にならざるをえないなど、いまだに持ち合い株※が銀行の成長戦略の足かせとなっていることも事実である。
メガバンクが冬眠から覚めたと思った08年前半であったが、09年、春を迎えられるかは株価が鍵を握る。
※銀行と企業などが取引関係を維持するために持ち合う株式